今、イギリスでは、自動車保険や年金保険などの保険料率に男女差を設けることの是非で議論が百花繚乱の状態にある。
と言うのは、3月1日に、欧州司法裁判所が、「男女別の保険料率は違法」という判決を出したからだ。ちなみに、欧州司法裁判所は、EUの最高裁判所に相当するため、控訴や上告が為されることはない。
これは大変な事態である。一般に、自動車保険については、男性の事故率が女性の事故率よりもかなり高く、特に、若年男性の事故率が圧倒的に高いことから、統計的な事故率に応じて、男性の方が女性より高い保険料を求められることになる。一方で、年金(終身年金)は、生きている限りもらえるものなので、平均寿命の長い女性の方が男性よりも高い保険料を求められる。
従来は、このような考え方が、合理的な慣習として、(おそらくは世界的に)認められてきたのだが、欧州司法裁判所は、「男女平等の原則に反する」として、EU域内の保険事業者に対して、2012年12月までに従来の慣習を改めること求めた。
これに対して、いくつもの概算が示されているが、一説によると、若年女性の自動車保険料は3割程度高くなるという。当然、男性の自動車保険料は若干下がる。
保険料引き上げの対象となる人たちからは怨嗟の声が上がる一方、「自分は男性だが安全運転で何十年も無事故。」、「事故暦や運転距離に応じるのは分かるが、男女差は関係ない」と言った声も聞こえてくる。更には、「そんなに男女差別は駄目だ、平等だ、と言うなら、年齢別に保険料が違うのだって、年齢差別だ。」として、男女別料率の合理性を訴える意見もある。
保険というのは、基本的には助けあいのための社会的なツールであって、なるべく多くの人が加入し、公平に運営されることが大切だ。あまり保険料が高すぎて、保険に加入しないドライバーが増えたりすれば、無保険車との事故に遭遇した人は、金銭的賠償を受けられないという可能性も出てきてしまう。だから、ある程度、リスクの高い人も加入できるように料率を均す必要はある。
だが、明らかに統計的にリスクが異なる者に、同じ保険料を求めるのも合理的でなく、そうなれば、危険の高い人しか加入しなくなって、結局は保険制度が成り立たなくなってしまう。だからこそ、保険料の決定(さじ加減?)というものは、全員が100%納得するのは無理であろうが、皆が合理的だと思える水準というところに落ち着ける必要があるのだろう。
個人的には、この司法裁判所の判断は適切ではないと思っている。いやむしろ、これは商品・サービスをいくらで売るかという企業判断の話であって、裁判所が介入して企業に是正を求めるレベルの話ではないだろう。 例えば、30分間食べ放題のおすし屋さんがあるとする。男女同料金だと、多分、少食の女性は殆ど来ないので、結局、大食い男性ばかりが来て利益は薄くなる。男女別料金にして、女性の方が安い状況にすれば、女性も増えて、お客は増える。これと同じではないだろうか。
男女平等とはいうけれど・・・。-ロンドン新(米)所長日記、写真:Patrick Marioné – thanks for
寿司を食べるか食べないかは店と客の間の問題であって、第三者には何の影響も与えませんよね。
それに対して、
保険の場合は、契約の当事者間の問題にとどまらず、
>あまり保険料が高すぎて、保険に加入しないドライバーが増えたりすれば、無保険車との事故に遭遇した人は、金銭的賠償を受けられないという可能性も出てきてしまう。
というように、第三者が被害を受ける可能性がある。
経済学で言うところの外部性ですね。
したがって、保険の場合は市場での企業判断に裁判所が介入する事にも一定の合理性はあろうかと思います。