フランスのニコラ・サルコジ前大統領は、2017年の大統領選に再立候補すると表明してから初となる政治活動の場で、フランス全土でブルキニ着用を禁止すると宣言した。「国内のビーチやスイミングプールでのブルキニ着用は認めない。全土で禁止する法律が必要だ」と、サルコジ氏は8月25日にフランス南部の都市で開かれた政治集会で語った。(参照:huffingtonpost)
今月23日、南仏ニースの海岸で、警官たちがブルキニを着ていた女性に腕や頭の覆いを外させたように見える写真がネットで公開され、フランス国内で大きな議論となった流れをうまく利用したサルコジの戦略である。
サルコジは昔から頭が良い。発言が過激で、政治と金の問題がいつもチラつく”黒い政治家”だが、世論をうまく掴み、国民の意見を先回りした発言をする彼は、政治家としてのカリスマ性で言えば、現フランス大統領のオランドを上回るだろう。現に、2012年フランス大統領選挙におけるテレビ答弁では、圧倒的にサルコジのほうが弁が立ちで、オランドを圧倒していた。
それでも、オランドが選挙で選ばれたのはサルコジの金の問題に嫌気がさした”サルコジ反対派”の有権者が全て、オランドに票を入れたからであって、オランドの政治家としての能力を期待されていたわけではない。当時のフランス人たちに話を聞いてみると、「オランドが良いというわけではないが、サルコジがまた大統領になるのは嫌だから」と語る人が多かった。
あれから4年。時代は大きく変わってしまった。
失業対策や経済政策を重大な公約に掲げて大統領に当選したはずのオランド大統領だが、フランス経済の現状はどんどん悪くなった。財政赤字は公約した国内総生産の3%を超え、失業率も増えて10%を超えている。2013年10月、フランスの調査会社イプソスが行った世論調査では、オランドの支持率は24%。これは歴代大統領の中でも最低である。
さらに、2015年には2回の大きなテロ事件があり、一時は支持率を回復するも保守派からは、政府は何もしていないとの批判が出ている。テロの恐怖を目の当たりにしたフランス国民の政治思想が右派=移民排除に傾きつつあることは言うまでもない。
この世の中の流れを、サルコジが利用しないわけがない。大統領時代に、移民が数多く暮らしている治安が安定しない地域を視察し、彼等を「社会のくず」「ごろつき」呼ばわりしたサルコジ。「この国には優秀な移民が必要だ」と主張した強硬な姿勢は間違っていなかったでしょ?と、今頃になって国民に語り掛ける。
サルコジ氏は、TF1のインタビューで「緊張を緩和する一番良い方法は、公共の場で宗教色が表に出てくるような格好を禁止することだ」と述べた。
イスラム教徒の女性用に全身を覆う水着「ブルキニ」が今、議論になっているが、ブルキニが問題というわけではなく、事の本質は政治家の支持率を集めるためのパフォーマンスに過ぎないのではないか。ブルキニやブルカなどは、テロへの恐怖心を利用して支持率を集めようとする政治家には格好の道具である。
私たちは、政治家とマスコミに踊らされているだけなのかもしれない。
そんな警笛を鳴らす、1枚の風刺画を見つけた。
ブルキニを来た女性の背後に、4つのテレビニュース画面がある。そこには、「高まる失業率」や「トルコのシリア侵入」、「地球環境汚染」、「ウクライナ情勢」を伝えている。そして、この風刺画のメッセージにはこう書かれている。
Un burukini et on oublie tout…
— ブルキニ1つで、私たちは全てを忘れる… ―
実際に差別され、ブルキニを脱がされるムスリム女性にしてみればこれは大きな問題であるが、ガヤで議論するフランス人にとっては、もっと真剣に議論するべき問題が世の中にはたくさんある。
ブルキニ禁止問題は至極下らない議論に過ぎないことを、うるさいフランス人は早く気が付いたほうがいい。