先日書いた記事、『「幸せになる」という言葉が不幸の始まりだと、日本語を学ぶ外国人は言った。』では、日本語を学ぶ外国人が疑問に思った日本語の表現について紹介しました。
外国人から指摘されて、「そういう見方もあるのか」と日本を客観視できることはよくありますが、外国語学習もこれと同じような効果があるのではないでしょうか。外国語を学ぶことによって、日本語の特性や他の言語にはない良いところと悪いところが見えてくるものです。
そこで今回は、英語とフランス語の3か国話者の筆者が思う「英語やフランス語にはない日本語のいいところ」を6つ紹介します。これを読めば、日本語を話せるといかに便利なのかがわかると思います。
日本語はスキャニングしやすい
普段、日本語を使っていて「これは便利だなぁ」と一番思うのが、日本語の速読のしやすさです。日本語はとにかく、文字情報のスキャニングがしやすい言語です。日本語には漢字、ひらがな、カタカナという3種類(ローマ字を入れれば4種類)の表記があるので、文章のなかから大切な文字だけを拾って読む=スキャニングが簡単にできます。これは、映画の字幕を読むときなど、時間制限がある中で文章を読まなくてはいけない場合にとても便利です。
もちろん英語やフランス語でも、大事な単語である動詞や名詞を中心に拾っていく速読法はありますが、やはり日本語に比べると、アルファベットしかない文字というのはスキャニングしにくいと感じます。
日本語は数字をゴロで覚えられる
子どもの頃、歴史の年代を覚えるときに「鳴くよ うぐいす 平安京」、「いーくに つくろう 鎌倉幕府」と覚えた経験がある人は多いのではないでしょうか。実は、英語にも語呂合わせで数字を覚える方法はありますが、日本よりも複雑です。
例えば、円周率を英語で覚える場合、May I have a large container of coffee?と暗記します。それぞれの単語のアルファベットの数が、May (3), I (1), have (4), a (1), large (5), container (9), of (2), coffee (6) ……となり、3.141596と覚えます。しかし、この方法では単数・複数のミスをしたり、スペルを間違えてしまったら、もう終わりです。その点、全ての語が母音で終わる日本語は語呂合わせ向きで、どんな言葉も語呂で覚えられるのでとても便利です。
ちなみにフランスでは、クレジットカードの暗証番号やアパートのエントランスの暗証番号(防犯のために年に数回変更される)など、4ケタの数字を入力する機会がとても多いです。フランス語の数字はとても厄介で、例えば72は「60+12」、98は「4×20+18」という言い方をするので、とてもじゃないですが語呂合わせはできません。アパートの暗証番号が変更されるたびに番号を覚えるのに苦労しているフランス人を見ていると、語呂合わせのしやすい日本語を知っていてよかったなぁと心から思います。
日本語はごまかしやすい
英語やフランス語はとても論理的で、語順や単数・複数、冠詞の有無など、日本語にはない細かいルールがきっちりと決まっています。当然、このルール(文法)を守らずに話すと、相手には意図していたことと全く違った意味で伝わってしまいます。この場合、「ルールを間違えた話者が悪い」ということになり、コミュニケーションで生じた誤解は、話者の責任となります。つまり、英語やフランス語は、責任の所在がはっきりしているのです。
その点日本語は、主語(場合によっては目的語も)を言わないという点だけでも誤解は生まれます。文末の「…かな」、「…だけど」のような煮え切らない表現も日本語には多いです。さらに、日本の「察してあげる文化」もこれを助けるので、会話で生じた誤解の原因が話者にあるのか、それとも聞く側にあるのかがわかりにくい構造になっています。
これは、日本語を巧みに操れるような口が上手い人にはとても好都合。政治家の弁明のように、大切なところをぼかして、解釈論に結び付けることができます。
日本語は文末で論点をひっくり返せる
英語やフランス語が「言いたいことを先に言う」構造になっているのに対し、日本語は「言いたいことは後に言う」という構造になっています。特に、日本語は動詞を最後に言うというところがポイントです。
例えば、「トランプ氏が大統領になって嬉しい」と言いたい場合、「~嬉しい」までを言って、その時の場の反応を見て、「とは思わない」と付け加えることができるわけです。英語やフランス語では、主語の後にすぐ動詞を使わないと文章として成り立たないので、こういったテクニックは使えません。文末で論点を180度ひっくり返せるというのは、話者にとってはとても便利な文法的構造です。
日本語は字面でニュアンスが伝えられる
日本語の表記方法が漢字 ひらがな カタカナの3種類あるというのは、文章を書くうえでもいいことばかりです。字面だけで、ニュアンスや感情(気持ち)までを伝えることができる言語というのは日本語以外にはあまりないと思います。
例えば、かわいい女の子からのメールで、
「友達になってね」、「友だちになってネ」、「ともだちになってね」、「トモダチになってね」と送られてきたら、どれが一番嬉しいでしょうか。微妙な違いですが、印象はどれも違うと思います。
英語やフランス語の場合では、せいぜい強調したいことや怒りを全て大文字で表したり(例:I TOLD YOU!!/ I told you.)、文字のサイズや太さを変えたり、フォントを変えるぐらいしか方法がありません。
日本語はキャラを伝える人称代名詞が多い
日本語は、「私」や「あなた」という人称代名詞が非常に多い言語です。英語で「私」は”I”、フランス語では”Je”というように1通りの言い方しかありません。どんなに頑張っても、これ以外で自分を表現する言葉は存在しないのです。その点、日本語は「俺」、「自分」、「僕」、「うち」、「当方」、「こちら」など、色んな言い方が可能でどの一人称を選ぶかで、相手に与える印象を操作することができます。場の状況や相手によって使い分けるというのも、日本特有です。
ちなみにフランス語では、「あなた」という場合、”Tu”と”Vous”の2通りあります(英語はyouしかない)。初対面の人やお客様に”Tu”を使ったら失礼にあたるというルールがありますが、それ以外ではやってしまったらいけない致命的なミスというのはありません。これはフランス語の2人称が2つしかないからでしょう。
日本語は、「あなた」、「君」、「お前」、「貴様」、「あんた」、「そちら」など、数えればきりがないほどいろいろな言い方が可能です。数が多い分、ルールも複雑になりますが、たった一言で相手に対する気持ちを伝えることができるのは、日本語の人称代名詞が豊富だからなのではないでしょうか。
まとめ
言語にはそれぞれの良さがある
言語も国と同様、他にはない良いところと悪いところがあるものです。この”他とは違うところ”が、個性であり、文化なのだと思います。
外国語を深く学習することで、それぞれの言語の特性を知り、その言語独自の良さを発見する・・・。
これが、外国語学習の醍醐味なのではないでしょうか。