以前書いた記事『多言語話者あるある』では、2カ国以上話す多言語話者が日常的にやってしまっているだろう独特な行動をまとめたが、「自分には当てはまらない」というマルチリンガルの意見も多かった。どうやら一言で「多言語話者」と言っても色々な種類があり、それぞれの外国語の使い方には多様性があるようだ。
まず第一に、多言語話者は2種類に分けられることがわかった。
- それぞれの言語を使い分けて会話する人
- それぞれの言語を使い分けず、ごちゃ混ぜにして会話する人
現実には、マルチリンガルの大半が1と2を行き来しているであろうが、どちらに比重が大きいかで分けることができる。例えば筆者の場合は、2に当てはまる。一日のうちで一番多く会話するのはフランス人の旦那であり、彼はフランス語、英語、日本語が理解できるので、彼との会話は3言語をミックスしたものとなる。
この多言語をごちゃ混ぜに会話する方法を『コードスイッチング』といい、社会言語学の分野でさまざまな研究がなされている。そこで今回は、言語をちゃんぽんにして話す多言語話者が日常的にする『コードスイッチング』について、その動機や是非についてまとめてみた。
コードスイッチングの定義
2つ以上の言語体系ないし言語変種の切り替えが行われること
コードスイッチングにも種類が2つある。
- 文中コードスイッチング……1文の中でコードスイッチングが起こっているもの
- 文間コードスイッチング……1文の後の次の文が別な言語に切り替わっているもの
具体的に言えばこんな感じだ。
日本の語だけ
「私は3ヶ国語話せますが、いつも3ヶ国語ごちゃ混ぜにしてしまいます。これまでなおそうとしてきましたが、なかなか難しいです。」
文中コードスイッチング
私はthree languages話しますが、but I always 混ぜてしまいます。I’ve been tried to なおすbut it’s なかなか難しい。
文間コードスイッチング
I speak three languages, でもいつも3ヶ国語ごちゃ混ぜにしてしまいます。I’ve been trying to fix it, でもなかなか難しいです。
このように文中コードスイッチングは単語だけ日本語になったり、外国語になったりする。いわゆる「ルー大芝」タイプだ。それに対し、文間コードスイッチングはセンテンスごとに言語を変えるやりかたである。
一見、複雑そうに思えるコードスイッチングを多言語話者はなぜしてしまうのだろうか。これは国や国籍によって状況が異なるだろうが、日本人のマルチリンガルがコードスイッチングをする理由として考えられるのは以下の3つである。
コードスイッチングの動機
1.楽だから
自分の知っている言語を全て使える環境というのは、多言語話者にとってとても楽な環境だ。日頃から言語スイッチすることに慣れている人は特にそうである。例えば、筆者の場合は英語の映画やドラマを1時間見ると、脳が英語で考えるようになるので、その後の会話でフランス語や日本語を話すのが難しくなってしまう。しかし、話し相手が自分の知っている言語を全て理解できる場合、頭の中で思いついた単語をそのまま言えばいいので、「○○語に変換しなくてはいけない」という作業がなくなるぶん楽になる。
2.相手の得意な言語を推し量る
これは初対面の外国人との会話でよくあることだ。例えば、初めて会ったフランス在住インド人と会話するとしよう。「インド人ならある程度英語が話せるかもしれない」という憶測の元、フランスにいるのでフランス語で会話を始める。この会話の中で相手と自分のフランス語と英語のレベルを探り、互いにとって最もスムーズに会話できる言語を選び出す。どの言語がお互いに一番しっくりくるのかを見極める目的でコードスイッチングをするケースだ。
3.○○語にはない表現がある
日本語にはあって英語にはない表現というのはたくさんある。英語にはあって日本語にはない表現も同様だ。さらに和訳がしにくい英単語もたくさんある。例えば “You will never be ready for family life.”という文のbe readyを日本語で訳すのは難しい。辞書では「準備ができて」と書かれているが、物理的な”準備”なのか、精神的な”覚悟”なのかを判断して和訳する必要があるので、話し相手が英語を理解できる場合、readyをそのまま使ったほうが早い。このように伝えたいことをより正確に表現するためにコードスイッチングをすることがある。
Pros &Cons
それでは、コードスイッチングの是非を考えてみよう。多言語話者はコードスイッチングするべきか、それともなおしたほうがいいのだろうか。
【プラス】
表現の幅が広がる
自分の知っている言語を全て使えるというのは、それだけ表現の幅が広がるということだ。下の絵のように、日本語のみの会話なら青い円のなかにある言葉のみを選び出して使わなければならないが、他の言語も使える場合はより選択肢の幅が広がる。筆者の頭の中はまさにこんなイメージで、普段はそれぞれの領域から相手や状況に合わせて言葉を選び取って会話をしているが、この3言語がわかる相手なら「選び取る」という作業がなくなり、全てを使えるので表現の幅が広くなる。
【マイナス】
“一つの言語だけ”の会話が難しくなる
コードスイッチングに慣れてしまうというのは、それぞれの言語のいいとこ取りするのに慣れてしまうということ。しかし、日常の多くの場面では1つの言語しか話せないので、自分の知っている単語のなかから相手の知っている単語のみを選び出すという作業をしなくてはならない。すると、日本語で話すべきところでとっさに英語が出てきたりしてしまうようになる。最初に頭に浮かんだ言語を日本語に変換するなど、会話でつっかえてしまうこともある。スイッチングできないという状況に置かれたときに、コードスイッチングのマイナス面は如実に現れる。
おわりに
筆者はこれまで言語をごちゃまぜにして会話することは悪いことだと思っていたが、必ずしも悪いことだけではないようだ。コードスイッチングは時間をかけずに語彙の不足を補い、複雑な内容を表現することができ、話し合いの流れを大きく妨げることなくディスカッションに参加することが可能になるという研究結果もある。
あなたはコードスイッチングをするほうですか?どんなときにスイッチングして、どんな点が問題だと思いますか。コメント欄で教えてください。
写真提供: Noel C. Hankamer