フランス政府が治安の強化を理由に、ロマ人たちの違法キャンプ撤去や不法滞在者の強制送還、さらには違法者の国籍はく奪していることに対して、内外から厳しい批判が相次いでいる。
しかしロマ人の強制送還は何も今になって始まったわけではない。2008年には8200人、昨年は1万人以上が、300ユーロ付きの送還を受けている。
ではなぜこの時期にフランス政府は強行手段に出たのか?
その理由としてまず、移民や少数民族が絡んだ暴動が立て続けにおき、社会不安が高まっていることが背景にある。さらに、3年前にロマ人が多く住むルーマニアとブルガリアのEU加盟が実現した(つまりEU加盟国内での移動が自由となる)ことを受け、EU加盟移行期間内(2014年まで)に道筋をつけて、移民政策を明確にしておく必要があるのだ。
フランス国内では、違法な政治献金疑惑や失業の深刻化で不人気のサルコジ大統領が、再来年の大統領選挙を睨んで、人気回復に利用しようとしているのではないか?という非難を強めている。また16日にブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)の特別首脳会議では、サルコジ仏大統領とバローゾ欧州委員長はこの問題をめぐって激しい言い争いになった。
フランスのサルコジ政権による「追放」政策で行き場を失ったロマの人々は今、パリ近郊で「避難」生活を続けている。
「故郷のルーマニアには職がなく、仏で働きたい」というロマ人。しかし、フランス人のロマ人に対する反応は微妙である。ただでさえ失業率が約10%と高く、さらには世界不況の波もありフランス人にとっても職を探すのは一苦労であるからだ。私の義姉もフランスのロースクールを卒業し、放送メディアのインターンシップとして2年働いていたが、未だに正規社員として雇ってもらえる働き口は見つかっていない。
経済危機に悩むフランス社会では、「(ロマの故国)ルーマニアが責任を取るべきだ」という声も多くある。
移民国家フランス。2004年の調査によると、フランス国内には約493万人の移民(うち197万人はフランス国籍)をがおり、フランスの人口のうち少なくとも4人に1人は、移民か移民の子孫であるという計算になる。
かく言う私も、2009年からフランスに移民してきた人である。
滞在許可書を手に入れるため、フランス政府が定める強制参加の会合で多くの移民に出会った。そこで出会った移民の大半は上記のロマ人同様、「職を求めて」フランスにやってきた人たちであった。
ある男性は母国でスペイン語を一生懸命勉強し、スペイン語の教師となった。フランスではもっと裕福な暮らしができると信じ、スペイン語教師の職を求めてフランスに移民することを決意した。しかし、フランスに来てみてもなかなか職が見つからない。フランスのスペイン語教師は、当然ではあるが、ほとんどがスペイン人かフランス人。それ以外の国籍の人を雇う枠もなければ必要もない。「フランスでは一生懸命勉強したその功績も認めてくれないのか?」と、彼は非常に憤慨していた。
また、ある男性は、フランス語での会話は完璧にこなせるが、読み書きができなかった。母国ではエンジニアとして働いていたのでフランスの企業で同じくエンジニアとして働きたいと望んでいたが、読み書きができないため、やはり仕事が見つからない。妻子もちの彼は、このままでは家族を養えないとかなり切羽詰った様子であった。
私が出会った移民たちは全て正規の手続きを踏んで滞在許可書を手に入れようとしていた人たちであるし、フランス全体の移民からすると氷山の一角なのであるが、私が実際にフランスの移民たちの話を聞いて、彼らはフランスに幻想を抱いているような印象を受けた。
母国では食べ物も職もない、でもフランスに行けばきっとお金持ちになれる・・・・
そう信じてフランスに来たという人が非常に多かった。
この現象が世界中で起こったらどうなるだろう?世界中の発展途上国に住む人たちが、次々と先進国へ移民してきたらどうなるか?
日本国内にアジア各国から、「日本に行けば裕福になれる」と信じ、職を求めて次から次へと移民がやってきたら、日本はどうなってしまうだろう。
まず、働き口が減る。すると、働き口が見つからない人たちの暴動がおき、治安が悪くなる。窃盗や恐喝の犯罪発生率が高まり、街を歩けば「お金を恵んでください」とせがむホームレスに出くわす。
これらから生じる国民の社会不安を取り除くため、政府は国を守る策にでる。すると、国内外から「人種差別だ」という批判を受ける。
これが現在のフランスだろう。
国内外から「人権大国フランスの崩壊」だと批判され、ロマ人送還は「人種差別だ」と反感を持たれたサルコジ大統領。それら批判の声からすると、かなり冷たく聞こえるかも知れないが、「(ロマの故国)ルーマニアが責任を取るべきだ」という考えもあながち間違えではないと私は思う。
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