以前書いた記事「日本は10倍子育てしにくい」では、賛否両論たくさんの意見を頂いたが、なかでも「これは日本に限った話ではない」という意見が多かった。そこで今回は、日本が他の先進国に比べて子育てしにくい理由を5つ挙げることにする。
なぜ日本は少子化するのか?子どもを産みたくない人の理由とはいったい何だろうか。海外から見た日本という観点から、日本の子育ての問題点を探ってみる。
1. 教育費が高い
経済協力開発機構(OECD)の加盟国の教育施策に関する調査「図表でみる教育2012」によると、日本は、他の加盟国に比べ、子ども一人当たりの教育支出が高い反面、教育に対する公的支出の水準が低く、家計負担が重い実態が明らかになった。
この図は縦軸が主要国の高等教育における授業料、横軸が学生支援を受けた学生の割合を示している。これを見ればわかるように、日本は高等教育における授業料はアメリカ、イギリスに次いで高いのに対し、公的な貸与補助や奨学金、給与補助を受けている学生の割合は、アメリカ76%、イギリス94%に対し、日本は33%にとどまった。
日本の子ども一人当たりの教育費は、大学まで全て国公立の場合でも800万円、全て私立で2500万円だと言われいる。海外の場合は奨学金制度が充実しているが、日本では全て親がこれだけの額の教育費を用意しておかなくてはならない。要するに、お金がない親は子どもに十分な教育を受けさせることができないということ。子どもがほしくても、現実問題として子どもを育てられないという夫婦がいるのはこのためだ。高等教育の公的資金支出を見直しと学生ローンの制度の充実を政府には検討してもらいたい。(リセマムより参照)
2. 手当が少ない
日本における税金面からの子育て世帯優遇度は、世界の中でも非常に低いレベルであり、家族・児童向けの公的支出の低さと相俟って、日本の少子化の根本要因となっていると考えられる。国は、子育て世帯の大変さに対して、ほとんど報いる姿勢がないという結果となっている。
また、EU諸国と日本の児童手当を比較した論文によると、EUでは子どもが18歳になるまで支給する国が圧倒的に多く、フランスでは20歳まで、ベルギーに至っては子どもが高等教育機関に在籍している場合25歳まで支給される。こうしたヨーロッパ諸国に比べると日本の給付年限は短く、子どもが15歳になるまでしか支給されない。
3. 仕事と育児を両立できない

総務省統計局「労働力調査」によると、女性の労働力人口は平成24年の平均で2,766万人(男性3,789万人)、労働力率は48.5%(男性70.8%)となっている。この48.2%という数字は先進諸国と比べると低く、50%を超えることが日本では女性就労支援施策のひとつの目標となっている。
筆者はフランスで暮らしているが、フランス人女性は出産後も当然のように仕事を続け、また「母親」ではなく「女性」として人生をまっとうしている姿を数多く見ている。一方日本では(改善に向かっているにせよ)産休を取ることすら困難を極め、キャリアや「女性であること」を諦めて家庭に入っていく人々がどれだけいるだろうか。ママになっても以前と変わらず仕事を続けられる社会ならば、子どもを理由に仕事を諦めたり、仕事を理由に子どもを諦めるようなことがなくなる。女性が自由に生き方を選択できる社会の構築が必要であるように思う。
4. ベビーシッター制度の遅れ
日本では最近、ベビーシッターによる卑劣な事件が報道され注目を集めているが、これはベビーシッターの制度そのものが充実していないことに起因しているのかもしれない。例えばフランスでは、政府の定める所定の研修を受けて認可される「アシスタント・マテルネル(ベビーシッター、保育ママ)」が25万人存在し、その利用者には3歳未満でおよそ4万8千円、3歳以上でおよそ2万4千円の国からの補助がある。働く女性のほとんどがこうしたベビーシッターを利用し、保育所に入れられない待機児童の子どもたちでも預けられる場所を国が与えてくれている。(音喜多駿氏サイトより一部抜粋)
日本は欧米に比べて、女性のワークライフバランスへの政府や社会の取り組みが遅れている。ベビーシッター問題も最近になって利用者が増え始めたが、一昔前ならあまり聞かない言葉であった。逆に言えば、利用者が増えたからこそ巻き起こった問題であるともいえる。社会の変化に制度が追い付いていないいい例である。
5. 親同士の比べ合い
日本はいい意味でも悪い意味でも、”横並び”の社会である。移民が少なく、日本に住む人の90%以上が日本人で、日本国民の大多数が自分を中流階級だと考える「意識」を持ち、同じようなレベルの教育を受け、同じような年収の人が多い。
欧米の場合、階級にまずバラつきがある。移民が多いことに加えて「自分は自分、他人は他人」という個人主義的な考え方をする人が多く、他人と比べ合うことをあまりしない。これに対し、日本人は国民性として”他人の目を気にする”節があり、収入や教養の面で横並びの他人とどうしても比べ合ってしまう。
他人との比べ合いは親同士の比べ合いにも発展し、これが子育ての難しさにつながっているともいえる。日本には”ママ友地獄”という言葉があるが、これもママ同士の比べ合いからくる人間関係のもつれである。比べ合いの意識が子育てする人を息苦しくさせている点は否めない。
まとめ
日本の子育て状況は改善に向かっているとはいえ、他の先進国に比べると遅れていると言わざる負えない状況にある。今、国が子育て支援の強化を制度化しても、それが浸透し、国民一人一人の価値観や意識を変えるにはまだまだ時間がかかる。
しかし、政府や社会が少子化から目を背けず、先送りにしないで真摯に向き合っていけば必ず”子育てしやすい国、日本”が確立されるはずだ。教育革新に燃える安倍総理だが、こういった視点も踏まえて、親子と社会の在り方を見直してほしいと思う。