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なぜ世界は分裂するのか?anywhereタイプとsomewhereタイプの違い

以前書いた記事『正直者が馬鹿を見る!日本の国籍法について日本人が知っておくべきこと6つ』では、国籍とアイデンティティの一致・不一致の話をした。この記事のコメント欄を見るとわかるだろうが、二重国籍を認めるかどうかの議論では、国籍をどう捉えるか、国籍の定義は何かが人によって異なる。

なぜ世界は分裂するのか?anywhereタイプとsomewhereタイプの違いなぜ、このような違いが生れるのだろうか。その答えとなりそうな説明を先日、海外ユーチューブ動画のBig Thinkというチャンネルで見つけた。イギリス人ジャーナリストのDavid Goodhartさんが著書『 The Road to Somewhere: The Populist Revolt and the Future of Politics』を紹介している動画だ。

彼はイギリスのブレグジットや、アメリカのトランプ政権の誕生などがなぜ起こったのかを、社会階層の違いから説明している。そこで今回は、彼の生み出した「anywhereタイプ」と「somewhereタイプ」の分類と、それが現在の国際政治でどのような結果をもたらしたのかを説明しようと思う。あなたは、この彼の理論をどう考えるだろうか。

 

あなたはどっち?
anywhereタイプ、somewhereタイプ

人のタイプの分類といえば、右派/左派、エリート/ノンエリート、外向的/内向的など、いろいろあるが、彼がこの本で紹介する分類はこれのどれにも当てはまらない。エリートとノンエリートの階層の違いとなると、3-5%のエリートとそれ以外の分類になってしまい、これでは国全体の流れを掴むのには適していないからだ。彼の社会的階層の違いの分類は以下である。

「anywhereタイプ」の特徴

  • 寛容(openness)、自立性(autonomy)、流動性(fluidity)に価値を置く
  • 流動性、移動性が高い
  • 学歴も比較的高い
  • 社会的な変化に適応できる
  • 集団帰属意識が低い
  • イギリス国民の20-25%をanywhereタイプが占める
  • 自己アイデンティティを、自己の業績を元に確立する
  • 例えば、「大学入試試験で合格した」、「大卒だ」、「仕事では失敗したり、成功したりした」というような事実が個人のアイデンティティを作っているという考え方を持った人
  • よって、「自分が何者であるのか」という概念はどちらかというとポータブル(移動できる)で、どこにいっても適応できる

「somewhereタイプ」の特徴

  • イギリス国民の半数を占める
  • 人口比で大多数なのにも関わらず、政治的、文化的影響力が低い
  • 学歴は比較的低い
  • 国や地域に根付いている
  • 治安や安全、馴染み、親しみ(familiarity)に価値を置く
  • 社会的な変化に適応するのが難しいと感じる
  • 集団帰属意識が高い
  • 自己アイデンティティを、自分とつながりのある場所や集団に求めるタイプ
  • よって、自分が所属している社会の変化に当惑しやすい
  • 移民や社会変化というのは、自己アイデンティティを脅かしかねないものとなり、脅威である

これが動画のなかで彼が分類していたanywhereタイプ、somewhereタイプの特徴の違いである。

あくまで「傾向」による分類であって、人間を完全に2つに分けることはできない。低学歴のsomewhereタイプもいれば、異文化に寛容なanywhereタイプもいる。

しかし、いずれにせよこの分類を頭に入れて、世の中のあらゆる人の意見や考えを聞いてみると、納得いくことが多い。マダムリリーは集団帰属意識の低いanywhereタイプだが、これまでsomewhereタイプの人と話をしていて、途中でちんぷんかんぷんになってしまう理由がわかったような気がする。

anywhereタイプの私から見た、somewhereタイプの人の特徴というのは、「人類はどこかに所属している」という意識が強いという点だ。国や地域、社会、会社などの何らかの場所「1つ」に所属しており、「その中間にいる人」や「どこにも属している感覚がない人」に対して嫌悪感を抱いている人が多い。それでも自分のコミュニティに関係のない場所(外国)にいるanywhereタイプは許せるが、自分と同じ場所にいる(または入ってくる)所属意識のない人は受け入れがたい。

対するanywhereタイプは、集団意識が低いため「群れる」ことに窮屈さを覚えてしまう。人と接する際に何らかの所属感・帰属感を得たいという欲求がそもそもなく、人間を分類すべきだという感覚もない。

よく国際結婚した日本人女性に対して「自分を白人になったと勘違いしている」という人がいるが、anywhereタイプの私からすると、そもそもが白人を「あっちの世界の人=自分とは別のカテゴリの人間」と見ていないし、そういう分類の仕方をしていないので、意味が分からない。相手が日本人だからといって「自分と同じ」とは思わないし、白人・黒人だから「自分とは違う」という意識・感覚がない

むしろ、自分と同じような人生経験のある人(家庭環境、学歴など)で、かつ同じような考え方や価値観を持った人なら、白人であれ、黒人であれ、インド人であれ、「自分と同じ」だ。この感覚がanywhereタイプの特徴であり、この筆者の感覚が理解できるという人はanywhereタイプなのではないかと思う。

 

世界を分裂させた原因=anywhereタイプの増加

この二つの社会階層の違いが原因で、ブレグジットの賛成/反対が真っ二つに割れたり、ドナルド・トランプ大統領のような歴史上最も支持率の低い大統領が生れたのではないか、とDavidさんは説明している。

ではなぜ、今、このような国家を分裂させるような流れが様々な先進国で起こっているのであろうか。これは単純に、anywhereタイプの人の数が急速に増えたからではないかと分析している。

50-60年前のアメリカやイギリスを見てみよう。この頃のコモンセンス(常識)はsomewhereタイプ的な価値観だった。しかし、現在のコモンセンスはanywhereタイプである。

つまり、良い人生・成功する人の人生というのはanywhereタイプであること。地元を出て、いい大学に進学し、いい会社に就職して、より上の社会層のメンバーの一員になることを目指す…。これが「良い人生」という社会的認識がされているのだ。

しかし、国民全ての人が上京して、良い大学・良い就職をすることは現実的に不可能なわけで、これに取り残された人が常に一定数いるということになる。

さらに、今日の地球規模の経済は、知識経済か情報化社会への過渡期であるが、「知識経済」というのは社会的階層の上の人たちが得をする経済の仕組みであり、この誕生とともに多くのmiddling job(中等職)が失われてしまった。

著書を紹介するにあたって、Davidさんはある肉体労働者の男性にこのように指摘された。

「昔は能力ではなく、経験を求められる仕事が多かった。こういう仕事はハーバード大学出身の学生がちょっとやってみたところでできる仕事ではない。つまり、経験が求められる仕事というのは肉体労働や職人にとっては、ある意味で”プロテクション”だった。」

経験を積んだという感覚が彼らに社会的な誇りをもたらしてくれていたのに、知的経済・情報経済、テクノロジーの発展により彼らの居場所がなくなったのではないかと説明している。その人たちの怒りが現在になって、ブレグジットやトランプ大統領のような形で表れているのではないだろうか。

 

おわりに

彼のセオリーはイギリスをモデルにしたものだが、ヘイトスピーチや外国人嫌悪が高まりつつある日本でも同じことが言えるのかもしれない。それでは、これからのグローバリズムの形はどうあるべきなのか。解決策はsomewhereとanywhereが共存し、わかりあえる世界はどうつくっていけるのか。

その答えは、このTED動画↓がとても勉強になった(日本語字幕で鑑賞可能)。

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