海外で出産した場合は、出生の日から3ヶ月以内に日本大使館へ出生届を出さなければいけない…と戸籍法第49条に明記してある。今年の夏に出産した筆者も、生まれた子の出生届を提出したのだが、この出生届書類がなんとも海外在住者の現状を全く無視したもので驚いた。
日本で婚姻届を提出したときにも感じたのだが、どうやら日本の役所に提出する書類というものは、それが例え国際間のものであっても、頑なに「日本式」で国際結婚者や海外在住者にとっては非常に厄介な代物なのである。
そこで今回は、日本式の書類形式がいかに海外在住者にとっては記入しにくいかを、出生届を例に説明しようと思う。海外と関連する日本の書類は、このままでいいのですかね~?
出生届記入例(仏大使館の場合)
カタカナ表記の限界
上の見本のように、日本大使館への書類はアルファベットで記入できないことになっている。しかし、これが海外在住者には非常に難しい。個人的には、日本語にはない発音の外国語をカタカナで表記すること自体に限界があると思う。例えば上の住所の「フォンテンブロー市」は、フランス語ではFontainebleauと表記するが、「フォンテーヌブロー市」と聞き取る人だっているだろう。「イヴリンヌ県」だって、「イブリーヌ県」にしようか「イヴリーヌ県」にすべきかと迷うかもしれない。
日本語には存在しない発音を無理矢理カタカナで書くというのは、簡単なようでいて、これが結構難しい。外国語をカタカナで書いてしまうと、元の音とはかけ離れたものになってしまうことが多々ある。筆者も「prêt-à-porter」が日本語では「プレタポルテ」と表記すると初めて知った時はものすごい衝撃だった。「prêt-à-porter」と「プレタポルテ」では発音が全く違っていて、その違いといえば、降給百貨店で耳にする「いらっしゃいませ」と居酒屋のお兄ちゃんが言う「らっしゃいやっせーい!」ぐらいの差なのである。
書く欄が小さすぎる!
全てをカタカナで表記するように強制しておきながら、住所や名前の欄が「これは嫌味なのか?」と思ってしまうくらい異様に小さい。試しに実際にサイズを測ってみたのだが、例えば外国人配偶者の名前を書く欄は縦8㎜×横60㎜。フランス人はファーストネームに名前を3つまで入れられるので、こうなると、例えば「デュポン ジョアン セバスチャン ティエリ」というのを米粒大の文字で無理矢理入れ込まなくはいけなくなるのである。
住所欄も同様で、カタカナにするとアルファベット以上にスペースを必要とするのに加えて、どういったわけか県名まで書かなくちゃいけない形式になっているので(フランスでは住所に都道府県名は書かない)、これがもう字面にしたときの「しっくりこない感」は絶大なのだ。
番地・号=意味不明
日本に来た外国人が口を揃えて「これは不便!」だと言うのが、日本の住所表記方法。欧米では「道路名+建物番号」で住所を特定できるが、日本はある一区画に番号をふった「番地」制。これが欧米人にとっては非合理的でわけがわからないのである。
筆者がフランス生活を始める前、日本に来ていたアメリカ人やフランス人が日本式住所表記に文句を言っていたのを聞いたときは、「そんなん言っても、今まで不便だと感じたことはないし、日本は日本式でいいじゃん」と思ったのだが、それからフランスで生活し始めるようになって、欧米式「道路名+建物番号」の表記がいかに便利でわかりやすいかを実感した。
欧米ではどんなに小さな道でも道路名がついており、それこそ2メートルくらいしかない道とも呼べないような脇道にもご立派に「○○通り」と名付けてある。これが初めていく場所を特定するときにひじょーにありがたい。欧米ではとりあえず「道路名+建物番号」だけわかれば、GPSなんかを使わなくても、とりあえずその場周辺(駅とか)に行って、とりあえずそこら辺の人に聞いてみれば、目的地にたどりつけることが多々あるのだ。
出生届書類の形式の話とは少しズレてしまったが、これらの書類も当然日本式の住所表記で書かなくてはいけなくなっており、非常に厄介。実際に住所表記は、数少ない日本式だった韓国も2014年から一斉に欧米式に改めているらしく、これは日本もそろそろ変えてもいいんじゃないかと思う。「いやいや、日本はこのままでいいでしょう?」と思ったそこのあなた、欧米式に変わったら「めちゃくちゃ便利やん!」と思うはずですから。
捺印とやら
海外生活をしていて、たまーに日本の書類を書かなくていけなくなったときにギョッとして二度見してしまうのが、「捺印」の二文字だ。もうこれは、「今って平成何年だっけ?」と聞かれた時と同じくらい心のなかでアタフタする。「サイン文化」に慣れきった海外生活者にしてみれば、急に判子を出せと言われても、「あれ?判子なんてどこにしまったっけ?」、「いやそもそも持ってたっけ?」、「朱肉なんて持ってる気がしないわー」という具合に非常に焦る。
聞くところによると、「印鑑を押す習慣」が根付いている国はお隣「韓国」と「日本」の二国だけだそうだ。日本の役所に提出する書類だから捺印が必要というのもわからなくはないが、海外生活者にとってはなんとも不便なシステムである。せめて海外の日本大使館へ提出する書類だけは、捺印ではなく署名で良しとしてもらえないものだろうか。
西暦 or 和暦?
海外で生活を始めてから西暦しか使わなくなってしまった人にとって、「今は平成何年?」という問いはタブーだ。いや別にタブーではないけれど、答えられない人がほとんどだろうと思う。そんな人が日本式の書類を書くとなると、いちいち西暦→和暦変換をググって調べて書くということになる。
しかも、海外出産の出生届(婚姻届けも同様)で厄介なのは、外国人配偶者の生年月日は西暦で、日本人の生年月日は和暦で書くというルールだ。このへんを知らずに全て和暦(西暦)で書いて役所に持っていき、書き直しをさせられたという人も少なくない。フォーマットが「日本在住者用」だから、目に見えないわかりにくい書き方ルールが多く、このせいで何度も書き直しをさせられるはめになってしまうのだ。
「通り」問題
2020年の東京オリンピックにむけて、日本は今、着々と「外国人にもわかりやすい道路標識」に変わってきている。たとえば道路名の場合、これまでは「通り」が「dori」など日本語をローマ字表記するだけのことが多かった。しかし、これでは外国人には理解しにくいことから、例えば「電大通り」の英語表記は「Dendai-Dori St.」のように、「通り通り」と日本語と英語の両方を重ねて表記するように変わってきているらしい。
しかし、これで解決かというとそうではないと筆者は思う。日本の通りを英語に変換する場合はいいが、その逆の外国語→日本語変換をすると、果たしてこれでいいのかと疑ってしまう。
というのも、日本語では一言「通り」だが、英語ではstreet, avenue, roadなど種類が豊富だ。フランス語でも、Rue (リュー)、 Avenue (アヴニュー)、 Boulevard (ブルヴァール)、Passage (パッサージュ)、 Allee (アレ)のように道の特徴から言い方を区別する。
これを日本式の書類に書くときはRue もBoulevardも単なる「通り」。こうなると、上の記入例にある「ヴィクトルユーゴ通り」は、フランスには実際に「 rue victor hugo」という道と「avenue Victor–Hugo」という道があり、カタカナで書かれた日本語だけをみたらどっちがどっちかわからない。そもそも住所の表記の仕方も、言語もすべて違うものを、あたかも日本と同じのように無理矢理「日本式」に当てはめさせること自体に無理がある気がしてならない。
まとめ
このように海外在住者にとっては、日本の役所に提出する書類というのは非常に厄介極まりない代物である。日本の役所なのだから、日本式にすべきだという意見もわかるが、これらの例にあげたようにやはり無理があるので、せめて海外在住者用の書類は別に用意していただけると親切だ。
それではどのような書類なら海外向きなのか。それは…
- アルファベット表記
- 補足としてカタカナで振り仮名をふらせる
- 捺印ではなく、署名
- 全て西暦に統一
- 番地・号フォーマットの削除
こんな風に変わってくれる日がいつか来てくれるだろうか…。
こういう様式って法律で決められてるんだから、こんなとこで文句垂れてても変わらないよ。本気で変えて欲しければ、議員に言うとかして法律変えてもらわないとね。きちんとした形で要望あげない限り法律なんて変わらないよ。役所はあくまでも行政府。立法府に文句言わないとね。
おそらくはだけど、こういう細部は、国会の法律じゃなく政令以下の、役所でつくる先例のテンプレとして昔に決めたことなんじゃないかな。時代遅れになったらさっさと使い勝手を良くすればいいのに。
cent pour cent d’accord!
書類を書く仕事してると、この手の類のことは解決方法があるので、何をイマサラ(呆)です。日本で家を建てたり、ローンを借りたり、相続等々の経験がなくて、(せめて社会人として働いていたら知ってると思うんですが)おそらく日本の常識をご存知ないのでは。役所って、結構、フレキシブルなんですよ。
しよしさん>
そうだと思う。家族や友人に頼むこともできるし、書士業の方たちなんかも活躍されていますよね。
昔のお友達は国際結婚・離婚を専門に扱う司法書士さんでした。
役所側も代筆まではいかないけど、文字を読み上げてくれたり、サポートをしてくれるNPOだとか、
事業所だとかを紹介してくれたりもします。
書類仕事って法律とお金に直結することが多いから、国の機能がしっかりしている場所ほどうるさい。
だけど、そのうるささが、自分や周りの人の権利を守る事につながっているとも思います。
一般的に大使館や領事館の窓口の現地採用の日本人特に現地人と結婚している女性は事務的で冷たい印象を受けるが記入方法がわからなかったら聞いた方が良いだけ。日本の戸籍制度はほぼ完璧なので自慢したらどうでしょう。
たしかに、にほんの役所の書類はロマージにあまり合わないんですね。でも、わたしの経験で、フランスより、市役所の公務員は気が長くて描き方を説明してくれる。
窓口の人が接し方やサービスが悪いとクレームがつくからです。あるいはあなたが白人の外国人だったからかもしれません。多分、欧米ではそのような教育は新人にOJTとしてしてないでしょう。
カタカナ表記ではなく、アルファベット表記にしてほしい。とあるが、この書類は行政内であちこちへ回る物だし電話連絡とる時などそのスタッフがアルファベットでどう発音するか分からない人も多いと思う。だから、面倒臭いしカタカナという発音記号を選択させているだけだと思う。フランス大使館のスタッフなら、あーこの町はこう発音する。とわかるかもしれないけど、この申請書は日本のあちこちに回るわけでフランス大使館スタッフだけが見るものではないし。フランス語ならまだ何となく発音が想像できるかもしれないが、東南アジアや、アフリカのどっかの国在住の一体どう発音するのだ?という言語をアルファベット表記されたら、行政スタッフも無駄な仕事が増えるばかりだと思う。だったら、カタカナにしておけばよいのだ。そもそも、申請書は申請する人のためにあるのではなくて、される方側がほしい情報をほしい形で記入してもらいたいものなのだから。
日本人が日本のために集める情報なのだから、海外生活者がイラッとしようが文句言おうが
変更する理由にはならない。
アルファベットは海外全ての言語を表記できるものでもない。
戸籍は日本国籍を持っている人にしか発生しないものなのだから、
夫婦のどちらかは確実に日本人であり、書類の書き方など少し説明されれば誰でも書けるもの。
よくもまあ、底の浅い感想を大層な記事として掲載できるものだと感心する。
だったら日本政府もグローバル化や外国人に就労ビザなどを与えずに永遠に鎖国すればよいのでは?
そもそも外国の恩恵を受けたい損得勘定と、規則を墨守したい土人根性を両立できない
能力の残念さこそ責められるべきでは?
複数の国でヴィザや銀行口座を作りましたけど、どこの国も役所の書類って意味不明ですよ苦笑
私は日本で行った大使館は、親切で待ち時間も短かったから、いい思い出しかないけど、これも当たる人やお国柄にもよるんだろうな。役所でも仕事の処理能力が低いひとはいたけど、あんまり怒ったり、怒鳴ったりする人もいなくて、親切です。
フランス人の名前と日本の名前を持っている友達は前に、フランスで書類を更新するときは、色んな記号をつけまくらないと本来の発音にならないので、めんどくさいと言っていました。親が離婚して名字が変わっていると、一緒に旅行するとき超めんどくいとも。
あと、国(私が知る限りドイツとスイス)は、ファーストネームで性別を判別できなければいけないらしく、
親がつけたい名前を仕方なくミドルネームにして、ファーストネームはその国の古典的な名前”Josephine,Julia,Irene)とかで、やっと登録完了したそうです。その子はアラサーですが、現地人に聞いたところ、そういうのまだ聞くよとの答えだったので、現地の法律は相変わらず変わっていないのかもしれません。
>アルファベットは海外全ての言語を表記できるものでもない。
私もそう思います。フランスに多いアラビア語系の名前を持つ人のつづりも、同じ名前でも、かなり変わる事があります。そもそもフランス語にない音もあるしね。
でもそういう人たちは、そのめんどくさい手続きを生まれた時からや、小さいころから義務付けられているんです。日本でも、介護してたり、小さい子どもがいる人は、役所に種々の書類を取りに行ったり、提出しに行ったりすることが、多くてそれが日々の生活。ハンコは便利だから、外国人の友だちで持ち歩いている人もいます。自分の国にはないからあえて新鮮だそうで。(けっこういいのを持っている笑)
めんどくさいけど、それをすることで色々保障されるなら、私だったらあまり文句をいわないかな。
書式を変えるとその分混乱するから、ある程度スムーズに行くなら、まあ、いいかみたいな感じ。
同じことを繰り返すならなおさらのこと。
少なくても、日本は書類の紛失が少なかったり、足りない場合はきちんと(しかも早めに!)連絡してくれると思う。他の国だったら、ネットで該当する部署を調べて行ったのに、担当部署が変わったので、別の役所に行ってねとか、申請書類を半年放置とか平気であるから。あまりにも日常茶飯事なので、いちいち怒っていたら、身が持たないです。
まあ、役所の面倒臭さは国際結婚で初めて感じる人と、それが当たり前になっている人とは、
ぜんぜん重さが違うかな。
出生届に関しては、戸籍に日本語で記録しなければならない関係で、おそらく住所などをどうしても日本語表記にする必要があるのでしょうね。私はアメリカ在住で、日本領事館でパスポートの申請などをしたことがあります。そうした申請にはアメリカの領事館でも日本の書式を使いますが、申請書の住所は英字表記でよかったですし、捺印欄もサインでOKでした。
単なる慣例の部分や親方日の丸の気質が抜けない職員の嫌がらせもあると思いますけどね。
以下は経験談ですが結論同じで長いので読み飛ばしても構わないです。
彼女(日本人)を連れて法務局に行った時のこと。
ある書類の書き方を教えて書かせ、1人で窓口にいかせたら間もなく戻ってきた。
西暦を和暦に直してこいと言われたとのことだが、聞けば
「西暦記入欄は外国人が使う欄で、日本人は普通和暦欄に記入するんだけどね。」
とまで言われたらしい(実はこのやり取りは少し私も聞いていた)
もちろん書類にそんな注意書きはない。
私は彼女が若い女性だから舐められたと直感した。
窓口に聞こえるように
「ああ、じゃあ日本人だから書き直してあげて。どんな法的根拠でやってんのか後で聞いとくから。
どうせ慣例だよ。
法務局なんて誰も文句言わないからさ、いい気になってんだよ。
一番常識の無い連中が普通を決めるなと言っておいてよ。」
と言ってやった。
その後彼女の書類は受理されたが、職員の態度がうって変わって
「申し訳ありませんね、一応どうしてもということでしたら、西暦でも受理はできます。ご協力ありがとうございます。」
と言われたそうだ。