厚生労働省の統計などによれば、現在日本の「共働き世帯」は1077万世帯。ちなみに、35年前の1980年は共働き世帯は614万世帯でした。働くママが増えるにしたがって、日本の「家族」のあり方もこれまでの「男性が外で働き、女性が家庭を守る」という古典的な価値観から、「男女が協力して、仕事と家庭を両立させる」という新しい価値観へ変わってきています。
そこで問題視されるのが、日本人男性の家事&育児参加率の低さ。他の先進国と比較して、いかに海外のお父さんたちは家事分担をし、いかに夫婦関係がうまくいっているのかという内容のテレビ番組や書籍、ネット記事などが目立ちます。
日本に比べて女性の社会進出率が断然高いフランスも例外ではなく、共働きフランス人女性を「ママになっても仕事を持ち、女性らしく輝くキラキラママ」というように持ち上げること多いですが、実際は少し違うのではないかと(筆者も子どもを育てるようになって)思うようになりました。そこで今回は、共働き先進国フランスの育児が実は日本で持ち上げられるほどうまくいっていない4つの理由を紹介します。あなたは日仏の共働き家庭の違いをどんなふうに思いますか。
本当は子どもと家にいたい
フランスの出産休業期間は出産から3ヵ月。多くの女性が産後3カ月たつと仕事に復帰していきます。「子供が生まれ体が回復したら、すぐにでも仕事に戻りキャリアがつめる!」と言えば聞こえはいいですが、本当は仕事に復帰などせず、家で家事をしながら子どもの世話をしたいと考えているフランス人ママは案外多いです。
確かにフランスでは管理職まで出世する女性も多いですし、出産を理由に退職しなくていい社会システムが整っているのは事実です。しかし、だからと言ってフランス人女性の誰もがバリキャリママ志向なのかというとそうではありません。本当なら毎日子どもの成長を見ていたいと願っているのに、職場でのポジションを失わないために泣く泣く職場復帰する…というのが働くフランス人女性のあるあるだったりします。
本当は専業主婦でいたいけど、それではやっていけない事情があるので「共働き」を選択しているパターンが多いです。フランスで働くママの誰もが「働いて自分らしくありたい」と考えているかと言えばそうではありません。
本当は家事分担なんてできていない
「フランス人男性は家事や育児に協力的♪」と一面的に伝えているものが多いですが、実際はそうでもないです。家事分担ができていると言われるフランスでも「男性がどれだけ家事育児に協力しているか」が問題視されているので、もうこれは共働き世帯の永遠のテーマなんじゃないかとさえ思います。
確かに、大前提として「家事は女性がするもの」といった考え方はフランスには存在しません。フランス人男性の家事&育児参加率の平均は、日本より高いのも事実でしょう。実際に、日本人男性に比べるとフランス人男性のほうが家事&育児を率先してやってくれます。
しかし、だからといってフランス人妻たちが夫に不満をもっていない、というわけではありません。「私のほうが今、仕事で忙しんだからもっと協力してほしい」、「休みの日にゲームする時間があるなら子どもと遊んでほしい」、「家にいる時くらい好きなことをしたいし、休ませてほしい」など、フランス人家庭を少しのぞいてみると、互いに家事育児分担について不満を抱いていることが多く、フランス人と話しているとわりと頻繁にこういう愚痴話になります。
おそらく「日本人男性の育児参加」とは、違った次元、レベルでの不満なのでしょうが、母親が働くことが当たり前の社会とはいえ、夫婦間で「家事を分担すること自体」が難しいことなんだと思います。フルで働く夫婦が仕事を両立しながら、協力して家事や育児を分担するというのは、簡単なことではありません。
本当は夫婦の時間が持てずにすれ違い
フランスでは、夜に夫婦で食事に出掛ける場合などにも気軽にベビーシッターを頼み、夫婦二人の時間を大切にします。…というのは確かに事実なのですが、だからといって子どものいるフランス人夫婦がいつまでもカップルのようにいられるかというと、そうでは決してありません。
やはり、夫婦共働きでは妻も夫も、仕事と家事&育児で一日が終わってしまいます。二人とも仕事で疲れて帰って来た後に、子どもの世話、食事、家事などをやっていては、夫婦でゆっくり会話することもままならないです。追われるように一日が終わり、週末になれば平日にできなかった溜まった洗濯や掃除をして終わります。こうして徐々に夫婦関係に溝ができ、離婚に至るカップルがどれだけ多いことか…。
また、管理職まで上りつめたフランス人女性は、そのほとんどが離婚経験者だったりします。夫婦のどちらもが自分の仕事やキャリアを優先している場合、犠牲になってしまうのは毎日の夫婦の会話です。フランス国内でもパリ在住のカップルのほうが地方よりも離婚率が高いのも、このへんが関係しているのかもしれません。
本当は保育園に入れず、家計はキツキツ
“フランスでは働く親のために、子供を安心して預けられる施設が充実しています。だからこそ、フランスでは多くのママが子育てをしながら仕事を両立させているのです。”
これは確かにその通りで、フランスには保育園以外にも保育ママ(ヌヌ)や学童保育など、預け先の選択肢も多いです。しかし、実際は一番料金の低い「保育園」に落ちる家庭が非常に多く、結局は料金の高いヌヌさんに預けるしかないというのが現実です。筆者の友人の働くフランス人ママは、妊娠3カ月の時点で保育園に入園申請をしましたが、それでも落とされてしまいました。現在は月に25万円程度稼ぎ、そのうちの15万円を保育ママに支払っています。本当は家で子どもの世話をしていたいけれど、職場でのポジションを保つため、家のローンを支払うために仕方なくヌヌさんに預けているそうです。
家のローンがなぜ家計を圧迫するかというと、フランスでは第一子誕生前に寝室が2部屋あるアパートに引っ越すケースが大半で、賃貸にするよりもアパートを買うという選択をする人が多いからです。働くママが多いということは、それだけ預け先の競争率が高いということです。フランスでも地方によってこの辺の事情は異なるのでしょうが、パリやパリ郊外では「保育園は近くにあっても入れない」というのが現実です。
結論:フランスの共働き育児も甘くない
共働き先進国と言われているフランスでも現実はそんなに甘くはなく、みんな日々の生活に四苦八苦しながら、何とか毎日をやり過ごしている…というのが筆者がもった印象です。結局のところ、何でもうまくいっている夢の国というのは存在しないということなのではないでしょうか。
しかし、国や社会として「子持ちの女性が働きやすい環境」が日本よりも整えられているというのは事実です。ただ、日本もフランスのように右習えで従えばいいのかというとそうではなく、日本は日本のやり方で環境を整えていく必要があると思います。フランスはフランス流に共働き社会を作り上げてきたのに、個々の家庭をみると色んな問題があるわけで、これはこの先日本が働き方改革などで社会が変わっていっても同じことなのかもしれません。