先日、仏新聞フィガロの「フランス語はどのように世界を旅しているのか(Comment les mots français voyagent dans le monde)」という記事で、このような一節を見つけた。
L’usage du français dans les pays asiatiques peut surprendre. La sonorité française compte-t-elle davantage que la signification?
Les Asiatiques éliminent les sonorités imprononçables pour eux et affectionnent le <é>. À leurs yeux, tout ce qui <fait français> est chic. Peu importe le reste. Ils accolent des mots, tels ceux d’une enseigne de café vue à Tokyo, <Congé payés Adieu tristesse>, ou d’un magasin de chausseures nommé <Les pieds avec panache>. Sans parler d’une boulangerie appelée<Bien cuit par votre ferveur>…(参照)
(日本語訳)
アジア諸国でのフランス語の使われ方は驚きだ。「フランス語の音」であることが、「フランス語の意味」よりも重要だと考えられているのか?
アジアの国では、発音できないフランス語の音は消され、 <é>(え)という音を好む。彼らからみると、「フランス製」のものは何でもおしゃれ。他のことはどうだっていい。フランス語の言葉をつなぎあわせるだけである。例えば、東京にある喫茶店の看板には、<有給休暇、悲しみよさよなら>というものがある。他にも、<品格をもった足>という名の靴屋もあれば、<あなたの情熱によって調理>という名前のパン屋もあるのだ。…
筆者はこれを読んだとき、「フランスのものは何でもおしゃれ」だなんて、自画自賛も甚だしいと失笑してしまった。「アジア諸国で発音できないフランス語の音」というのも、国によって様々だし、例えば中国語と日本語も発音は大きく違う。
そもそも、「フランス語っぽく聞こえるなら何でもいい」と日本ではみなされているなんて、誇張しすぎであるし、実際はそんなことないんじゃないの?…と思ったが、日本に行ったことのあるフランス人に意見を聞いてみると、この記事の指摘もあながち外れてはいないらしい。
彼らが言うには、「日本にはわけのわからないめちゃくちゃなフランス語(フランポネ)が“結構”ある」とのこと。
なんだこれぇ!変なフランス語!プププッと思わず笑ってしまうようなフランス語が日本には溢れているらしい。

まずはこちら。joli fesse(ジョリ フェス)とは、「きれいな尻」という意味。
le pipi d’ange とは、「天使のおしっこ」という意味のパン屋さん。
国内最大手のアパレルメーカー、「コムサデモード」も日本語訳すると、「流行ってこんな感じ」という意味になる。comme ça storeは、仏語と英語の造語になるが、意味は「こんな感じの店」。
さらにいえば、片仮名表記の「コムサデモード」をフランス語にすると、comme ça des modesとなり、このお店の表記comme ça du modeだと、発音はコムサデュモードになるので、表記と発音が一致していない。また、「mode(流行)」という単語は女性名詞なので、あえて言うならcomme ça de la mode(コムサドゥラモード)が正しいが、いずれにせよ、意味は通じない。comme ça du modeはスペル自体が不正解なので存在できない。
単体で国内最大手のアパレルメーカーである株式会社ファイブフォックスのブランド名が、発音、表記ともにめちゃくちゃで間違えだらけというのは、何とも恥ずかしい話ではないだろうか。
レスポートサックも意味はおかしくはないが、文法間違い。正しくは、le sac sportである。また、レスポートサックも表記と発音が一致していない。Le Sport sacという表記にしたいなら、発音は“ル”スポーサックである。レスポートサックと読ませたいのなら、表記はLes sportes sacsになる。どちらにせよ、間違ったフランス語なわけだが…。
ブルボンのプチビット。Pettit Bitはフランス語で「小さなペニス」という意味。petitがフランス語なので、その後に続くbitもフランス語の意味でとられてしまうのが問題である。この場合は、little bit(少し)や、little bite(小さな一口)にすれば、意味としてもおかしくないが、petitというフランス語を入れてしまったがために変なフランス語になってしまっている。
他にも探してみると、至るところに間違ったフランス語を見つけらことができる日本。
しかし、これは外国人が着る変な日本語のTシャツや、変な日本語のタトゥーのようなものだろう。


海外で見つける間違った日本語をほほえましく見ることもできるし、本人が気にしていないなら周りの人間がとやかく言うことではないかもしれない。しかし、もし自分がこういうタトゥーやTシャツを着ていたらと想像すると、嫌だ。
日本で間違った変なフランス語を商品名にしてしまう会社も、変な日本語のタトゥーをする外人も、「外国語だからほとんどの人がわからない」と思っているのかもしれないが、実際は本人が気がつかないだけでわかる人は確実にいる。
これが個人商店や個人のタトゥーレベルの話なら、「ばかだねぇ」と言われておしまいだが、コムサデモードやブルボン、海外アパレルメーカーの「superdry極度乾燥(しなさい)」などの大手企業が、意味の確認もせずに商品名やブランド名として世に送り出すというのは、何とも信じがたい話である。
地球の裏側でプププッと笑われたくなかったら、まずは意味を調べること。
「フランス語っぽく聞こえるなら何でもいい」と日本ではみなされているなんて、うぬぼれ甚だしいフランスの記事が世に出てしまう原因はここにある。
そして、何でも外国語にするという風潮をそろそろやめにしてはどうだろうか。文法も発音もめちゃくちゃなフランス語を使うより、正しい日本語を使ったほうがよっぽどおしゃれでかっこいいと思うのだが…。
「何でも外国語っぽいやつはおしゃれ」
この発想自体がダサいことに早く気がついたほうがいい。