前回は、日本における外国人のカラオケの反応をテーマにして書いたが、今回はフランスにおけるフランス人のカラオケの反応をテーマとする。
フランスにも、パリに中国人が経営する「カラオケボックス」があるそうだが、やはり大半は他の海外諸国と同様、バーやパブで大勢の前で歌うカラオケが主流のようである。
そしてそういったカラオケも、フランス人たちにとってそれほどメジャーな娯楽ではない。
その理由は何か?
やはり、「大勢の前で歌う」ことに抵抗感を持っている人が多いようである。日本でカラオケによく行く人でも大勢の前で歌うとなると少し気が引けるのではないか。マイクを使って画面に流れる歌詞を歌う「カラオケ」自体が珍しいフランス人にとっては当然の反応だろう。
旦那の両親が経営するレストランでは、アニメーターを雇い3ヶ月間毎週Soirée Karaoké(カラオケパーティー)をしていた。私もその度にお手伝いをしていたのだが、毎週毎週フランス人たちのカラオケを観察していると面白い発見がいくつかあった。
まず1つは、上記に挙げたように「人前で歌う」のを嫌がる人が多い、ということ。だから、マイクを持つのは子どもばかりである。「歌ってみたら?」と勧めてみても、「いやいや、私はいい。歌下手だから」といって断る人が非常に多いのだ。
それにも関わらず、このカラオケパーティーは毎週大盛況だった。
それには2つの理由がある。
まず1つは、フランス人は観客を盛り上げるのがうまいという点である。
いいタイミングで観客に拍手を求めたり、時折マイクを観客に向けて観客に歌わせたり。歌詞がよくわからなくなった時は、適当にアドリブで歌詞を作り上げ、観客から笑いをとったり。フランス人のエンターテイナー気質がうかがえる。
これはフランスのテレビ番組を見ていても思うことなのだが、フランス人は素人でも自分を表現するのが上手いように思われる。これは謙遜、控えめ、集団主義を良しとする日本人の気質とは真逆のフランス人気質から来るものであり、またそのフランス人の気質のプラス面とも言える。
そして2つ目は、カラオケ王の存在である。
フランスのカラオケでは、ほとんどの人がカラオケ初心者であり、歌詞をいまいち把握していなかったり、メロディーをうまく拾えてなかったりして、まともに1曲歌える人はあまりいないのだが、このカラオケ王は全てにおいて完璧。そういった人が毎週1人や2人現れるのだ。歌詞を完璧に覚えているのはもちろん、観客を大いに盛り上げる。その姿はまるでスターのようである。観客もその人が歌うたびに歓声を上げ、彼らの登場を喜んでいた。聞くところによると、彼らカラオケ王はカラオケが大好きでカラオケバーによく通っているそうだ。自宅に専用カラオケ機を持ち、よく練習しているらしい。だから、近くでカラオケパーティーがあると聞きつければ参加し、自分の歌声を大勢の前で披露し、スッキリして帰っていく。そういったカラオケ王はカラオケパーティーには欠かせない存在であった。
以上をまとめると、フランスのカラオケでは「大勢の前で歌うのに抵抗がある人」と、「大勢の前で歌うことを楽しむ人」というように、2極化していると言える。日本人でもカラオケを苦手とする人がいるが、フランスの場合はこの2極化がより顕著に現れているのである。
カラオケ先進国、日本。2極化する世界の消費者たちの需要を今後どのようにリードしていくのか、非常に興味深い。
写真:ernie .ca