フランスでの生活1年と3か月。一時帰国(帰省)をした。フランスにいる間はあれほど何度も、「日本に行きたいなぁ」と願っていたはずなのに・・・。海外在住者が帰国して初めて気がつく不思議な感覚。もちろん全ての海外在住者に当てはまるとは限らないけど、私の場合は日本滞在中、いつも以下にあげる5つのことを思いめぐらせていました。
日本人、日本語、日本文化に触れてほっとした気持ちになる
右も左もすべて理解できる感覚。海外にいる頃(特に言葉が通じない場合)は、それが一番懐かしかったりする。日本の空港に降り、売店におにぎりやお茶が売ってあり、半径3メートル以内にいる人が何を話しているかが全部わかる、その感覚が懐かしいのだ。帰国後一番最初にその状態を味わい、思う。「あぁ~、ここは日本だ。」自分が生まれ育った場所に戻ると、まずはほっとした気持ちになるものだ。
日本人に対して、「細かいなぁ」と思い、気疲れする
ほっとしたのもつかの間、次第に“日本人のあたりまえの生活”を徐々に目の当たりにするようになる。すると、海外生活を始める前は思いもしなかった感情が芽生えていることに気がつき、“逆カルチャーショック”のような体験をする。私の場合は、公衆トイレに入ったとき。用を達している時の音を消す「音姫」を見て、かるくショックを受けた。日本人はトイレの中でも周りに気をつかわなくてはいけないのか!と。音にまで気を配らなければならないのか!と。おそらく、フランスに行く前は、周りの日本人と同様何の疑問も抱くことなく、私も「音姫」を使っていたのだろうと思うのだが・・・。いつのまにか、少し日本人と感覚がズレてしまった自分に気が付き、また驚くのだ。
あたたかい笑顔、ていねいな対応に感動する
日本在住の外国人がよく言う、「日本のサービスは素晴らしい」というのは本当。日本のサービスはていねいで、あたたかく、腰が低い。サービスのプロと言われる、客室乗務員にもその質の違いがはっきりと表れる。フランスでの良いサービスは、上品で気高く、高級感を漂わせる。日本でのいいサービスは細かな気配りで腰が低く、お客様は神様という精神がより徹底しているように思われる。そして、どの店に入っても気持ちのいいサービスを提供してくれるので、結果的にフランスにいたときよりも多くのお金を使ってしまう。サービスの質が客の購買意欲に関係することは間違いないと実感。
案外、日本食は3口食べれば満足してしまう
あれほど恋しいと思っていたはずなのに・・・。わりとすぐに慣れてしまうのが、日本食。そしてそれが自分でも結構、意外だった。私が日本に帰って最初に食べたものはうどん。3口目までは「あ~、やっぱりおいしい!おいしい!」と思って食べるわけだが、4、5口目あたりから「いや、でもこれなら○○のとこののほうがおいしいよね」だとか、「あぁ、こんな味だったっけ」とか、今目の前にある日本食の価値が急速に落ちていくのがわかる。フランスで思い描いていた“日本食のイメージ(価値)”がすっ飛び、毎日日本食を食べていたころの感覚が思いもよらないスピードでやってくる。これもまた、海外在住者が日本に帰国した際に経験する体験の1つだろうと思う。
日本で日本人として生きていたころの感覚はすぐに思い出すが、周りの日本人と同じ感覚になったり、100%日本人として生きていくには少々の時間がかかりそうな…何とも言葉では説明しにくい、不思議で複雑な感覚になる
日本では今、テレビでどんな人が人気があるか?どんなニュースが注目を集めている?流行語は何?人気があったドラマは?歌手は?と、一通りの質問を周りの人にした後に、ふと思う。「あとどれくらい日本にいれば追い付くのだろうか?」。それに引き替え、自分はフランスのことばかりを話す。「フランスではこうだよ、ああだよ」と説明して、またふと思う。フランスでは日本の話ばかりして、日本ではフランスの話ばかりして、結局自分はどっちつかずのような・・・。
日本の空港に着いて思う。「あぁ、帰ってきたな」
フランスの空港に着いてまた思う。「あぁ、帰ってきたな」
フランスから日本に帰るときも日本からフランスに帰るときも何だか不思議な気持ちになったものだが、「帰ってきたな」と思える場所が世界に2つあること、それ自体が幸せなのかもしれない。