日本では65%を超える家庭で使用されている「ウォシュレット」や「シャワートイレ」などの温水洗浄便座。1980年の発売以来、着実に販売量を伸ばしていきました。海外からの来訪者たちは洗浄シャワーや温かい便座、消臭機能を備えたハイテクトイレに感激するそうです。
日本では温水洗浄便座が公共の場やオフィスのトイレだけでなく7割以上の家庭でも使用されていますが、世界のトイレ市場独占は簡単ではないそうです。それではなぜ、海外では普及しにくいウォシュレットが日本ではこんなにも大流行したのでしょうか。反対になぜ海外ではウォシュレットが流行らないのでしょうか。そこで今回は、海外では普及しにくい 「ウォシュレット」が日本で人気を博した理由を6つご紹介します。
1.清潔好きな国民性
日本でウォシュレットが人気になったの最大の理由は、清潔好きな日本人の国民性にあります。日本は高い技術と衛生面が非常に重要視される国。例えば飲食店に入れば、手を拭くための温かいおしぼりが出てきます。海外のレストランでおしぼりサービスのある国はほとんどありません。また、日本は湿気の多い気候のため、菌の繁殖に気をつけなければならなかったことからも、殺菌&除菌スプレーやグッズなどが広く使われています。そうした環境から、TOTOは独自に研究開発を進め清潔好きな土壌を持つ日本での普及が見込めると判断し、ウォシュレットの販売を決意したといいます。
2.発売時期
ウォシュレットが広く一般家庭まで広まった理由の一つに、ウォシュレットの発売時期が関係しています。日本で初めてウォシュレットが一般家庭用に発売されたのは1980年。その後、ビデ機能や消臭機能、リモコンを追加して、何度も商品開発を繰り返し、発売から19年後の1998年にはウォシュレットの累計販売台数が1000万台を突破しました。発売当初から今までにはないユニークな商品として注目を集めましたが、ウォシュレットが“購入”に結びついたのは、当時の好景気が関係していると思われます。1980年~1998年はちょうどバブル景気の時期と重なり、国民のお財布が潤っていた時期です。現在ではウォシュレットがないと困る!という人もいますが、当時の日本人にとってはウォシュレットがなくても不便に思うことはなく、「なくてはならないもの」ではなかったはずです。決して安くはないウォシュレットを、「特に必要もないけど良さそうだから買ってみよう」と消費者が思えたのは、当時の景気の良さが影響していると言えるでしょう。日本人の財布の紐が緩かった時期に登場したユニークな商品だったからこそ、大流行したウォシュレット。もしかすると、ウォシュレットの発売時期がバブル崩壊後の大不況時だったら、現在ほど普及していなかったかもしれません。
3.強烈なインパクトのCM
それまでなかったウォシュレットが日本の消費者に広く知られるようになったのは、あるCMがきっかけでした。1982年に放送された「おしりだって洗ってほしい」のキャッチコピーを使ったCMです。当時話題のタレント・戸川純を起用し、その独特のCM中の歌によって一気に知名度を高めました。CMについては初回の放映時間がゴールデンタイムであったことより視聴者から「今は食事の時間だ。飯を食っている時に便所の宣伝とは何だ!」などとクレームが入り、おしりという言葉を使用したことなどについても批判されたそうです。しかし、批判を含めて大きな話題をよんだ「おしりだって洗ってほしい」CMは、ウォシュレットとは何か?を広く国民に知らせることに成功しました。フジテレビのバラエティー番組「ホンマでっか!?TV」で、心理学教授の植木先生が「世の中の長く人気を得るものは、最初に批判されたものだ」と語っていましたが、まさにTOTOのウォシュレットが当てはまるのではないでしょうか。最初は批判されつつも大きな注目を集めることで、ウォシュレットの認知度を高め、ファンを着実に増やすことに成功しました。
4.水事情
反対に、なぜ海外ではウォシュレットが普及しないでしょうか。理由は様々ですが、一つは水事情が関係しているようです。例えば、にヨーロッパでは水道水が石灰分を含んだ飲料にも適さない硬水であり、これを使用すると含まれている石灰分が内部で凝固し、ポンプが故障したり、ノズルが詰まるなどして温水が出なくなるトラブルが考えられます。硬水だけではなく、ほとんどの外国では水道水は不純物が多いので、この地方には販路拡大はできないのが現状です。ウォシュレットは綺麗な水道水を使用することが条件になっている精密機器です。日本国内でも必ず水道水を使用して下さいとの注意書きが記載されています。日本でウォシュレットが人気になったのも、日本の恵まれた水事情が関係しているようです。
5.治安の良さ
海外ではたまに便座のないトイレを目にします。イタリアに多いそうですが、これは便座が盗まれることがあるからだといいます。「なぜ日本のトイレは外国人が驚くほどキレイなのか?」の記事でも紹介しましたが、海外の公共トイレは日本と比べてとても汚いです。トイレットペーパーや手洗い石鹸などが盗まれることもあります。そんな場所では、高価なウォシュレットを設置できるわけがありません。公衆の密室空間に高価なものを共同で使用させるには、壊されたり盗まれたりしない治安の良い環境でなければなりません。日本ではほとんどの国民が中産階級であり、移民による貧富の差が激しい国とは違って、治安を維持しやすい国であるといえます。一般家庭だけではなく、オフィスビルや駅のトイレでウォシュレットを設置できるのは、平和で治安の良い日本だからことできることかのかもしれません。
6.トイレの話題はタブー
海外の消費者はトイレ文化に関して奥手で、その心はいまだつかみがたいようです。TOTOの海外事業担当、田端弘道取締役も「外国では文化的なタブーがあってなかなか難しい」と語っています。「アメリカ人はそういうことを一切話さないんですよ。だからいくら彼らがいい商品だと評価していても、なかなか口コミで伝わらない」。田端氏によれば、米国の有名人たちの多くが来日した時にウォシュレットを称賛しますが、それも一時的なものだそうです。日本でも「おしりだって洗ってほしい」CMがテレビで放送された当初は苦情がでることもありましたが、挑発的なマーケティングと当時の好景気が功を奏し、この独創的なトイレは次第に消費者の間に浸透していきました。日本でのウォシュレット大流行のヒミツは、様々な要因が相まったものだということがわかります。ウォシュレットの海外展開は一筋縄ではいかないようです。これからウォシュレットが海外にどのように浸透していくのか、今からとても楽しみですね!