ホームジャパン日本は世界一の中絶が多い国?なぜ日本ではピルが浸透しないのか?

日本は世界一の中絶が多い国?なぜ日本ではピルが浸透しないのか?

ピル解禁こそ女性革命の第一歩、ととらえるフランス女性にとって、ピルに懐疑的な日本女性は不可解な存在のようです。
日本でピルが解禁された当時、さまざまな雑誌でその状況が取り上げられました。
ある女性誌に掲載された記事には、多くの間違いもありますが、「日本女性と少子化問題」を西欧人がどう見ているのかを知ることができます。
特に、中絶については、痛烈に批判しています。中絶に対して、西欧と日本には大きな考え方の差があるようです。

以下、1999年の記事です。

 

ピルが浸透しない日本

世界で最も中絶の多い国で、ついにピルが解禁となった。しかし、女性たちは副作用を恐れている。

1999年9月末、日本でもピルが解禁になった。先進国のなかで、日本は禁止されている唯一の国だった。議論は長引いた。ヴァイアグラが6ヶ月で許可されたとき、騒動が起こった。政府は「ピル問題」を無視できなくなったのだ。
なぜこれほどまで遅れたのか? 多くの女性が消極的なのか? 髪を赤く染めたり、青い眼のコンタクトレンズをつけても、結局、日本女性の頭の中は変わっていないのである。
未熟で、情報不足。これがインタビューで明らかになった事実である。それだけでなく、性に関する調査が示すように、日本女性の性革命は穏やかなのだ。74%の男子、55%の女子は、マンガやポルノ雑誌から性について情報を得るのである。
 日本では性教育が不十分である。「18~35歳の女性は未熟である。自分の生き方をコントロールする習慣がない。ピルを服用するかどうかは、相手次第だと答える女性が多く、自分で決めない」と語るフランス人ジャーナリストもいる。

それでは、日本女性はしたくないのだろうか? 90%の日本女性は、一般的な避妊法としてコンドームを使用していて、世界の他の女性のようにやっている。日本女性は自分の人生をコントロールしている印象を与えるが、誰一人として自律について語らない。男性が決めるのである。「彼にコンドームを使うように言うし、彼も使ってくれる。とにかく、彼が避妊するのだから」 避妊は男性の役目ではあっても、それが失敗したときは、女性の問題になる
「避妊の失敗で妊娠した患者が、絶えずここへやってきます。ピルを求める人もいますが、中絶するために来るのです」とある医師は語っていた。

 

ピル反対派の意見

ピルに反対する意見のひとつは、この薬がナチュラルではないからだという。前述の医師は、「自然? コンピュータも、電車も、車も、なにもかも自然ではなく、これらが我々の生活を豊かにしているのに。これらのものをすべて排除したら、我々はライフスタイルを変えなければならないだろう。女性は動物ではない。自分の体を守り、愛する権利、幸せになる権利を持っているのだ」
薬や化学物質への妄想は、日本の歴史と少し関係がある。なぜなら、広島の原爆と第二次世界大戦後、アメリカの占領下で、西欧の薬が普及したからだ。
ある東京の女医はこう語る。「公式にはピルを勧めません。ピル以外のよい方法があるからです。たとえば、羊はクローバーの葉を食べると不妊になります。ですから、避妊法として、クローバーといったハーブを利用することができます。口に入れるもの以外に、指圧という技術があります。妊娠の心配があるのなら、腰の中央の脊髄の二番目のツボに手をあてます。妊娠していたら、そのあたりが普段より暖かいはずです。そこをたたいたり、拳で打つと、流産します」 この方法は確かに自然ではあるが、かなり残酷だ!
ピル反対の議論は、このような暴力的な方法をイメージすることでもあるのだ。ピルに反対しているもうひとりの女医によると、ピルは新しい公害であり、ダイオキシンより危険だというが、これはヒステリックにしか聞こえない。また、外国の薬を使うと血が汚れると心配する人もいる。大衆の不安をあおるために、モラリストたちも意見を加える。多くの人は、ピルはフリーセックスの象徴であり、援助交際を助長するというのである。ピル解禁を遅らせた理由のひとつは、若者のモラルの低下を危惧しているからである。

 

若者の援助交際問題

日本は世界一の中絶が多い国?なぜ日本ではピルが浸透しないのか? 援助交際は、実際、日本では大きな問題になっている。日本社会は、性産業が明らかに発達し、確かに売春を容認しているが、高校生が自分より3倍も4倍も年上の「パパ」に体をさわらせてお金を稼ぐことは大目に見ることができなくなってきた。ブランドのバッグにしがみつくという、購買欲を満足させることだけが、若い娘たちのスローガンとなっているようにみえる。男性はといえば、ある種の解放に脅威を抱きつつも、セーラー服や出会い系サイト、ルーズソックスにファンタジーを持ち続けている。合法ではないにしても、13歳になったら、お互い同意のうえであれば性関係は自由である。ピルは、この抑制不可能なビジネスをさらに容易にする。こうして、宿題より「パパ」について考えている高校生を思いとどませるであろうと考え、ロリータの娘たちが何度も中絶している事実を無視して、ピルは認可されることがなかったのである。
かなり多くの女性が中絶をしている。中絶はタブーではなく、田舎ではいつも行われている。日本は、たぶん世界で唯一、胎児の墓(水子地蔵※)を持つ国である。水子地蔵は商売にもなっているのである。
この伝統は古く、日本の出生率が低下しはじめた1970年初頭に、水子地蔵が復活した。女性に罪の意識を緊急に持たせるために、保守党の政治家たちが新しい寺を建てたのだ。出生率に対する直接的な政策がないままに。今日、日本の出生率は1.5人(フランスは1.7人)で、世界的に低いほうである(1998年)。この状況への沈黙の抵抗として、女性たちは結婚を先延ばしにし、子供を少ししか産まない。

 

中絶するのにピルは飲みたくない日本女性

ピルに反対のもうひとつの理由は、マザー・テレサが言ったように、日本は中絶のパラダイスだからである。100人の妊婦のうち22.4人が中絶していて、この割合は世界一である。中絶数は、1998年の発表によると、343000ほどで、15~25歳の女性は10万人以上が中絶し、この世代の中絶は増加している。実際には、この数の2~3倍になると思われる。中絶は商売であり、「ファイナンシャル・タイムズ」の記事によると、年7億フランのビジネスになるという。
中絶は、女性の気分を悪くさせるビジネスであり、悲しくさせるビジネスである。中絶の経験を話す女性たちは、傷ついている。中絶を許しながらも、道徳的にそれを非難する社会にふりまわされているのである。
27歳のある女性、「2回中絶しました。1回目は学生のとき、それから25歳のとき。中絶したときの気持ちは、悲しくもなければ罪の意識もありませんでした。ただ、妊娠を避ける薬が存在しないという事実に本当に怒りを感じました。また妊娠するのが怖くて、肉体関係を持つのが恐ろしくなりました。彼が迫るたびに拒否したので、彼は私に満足しませんでした。彼とは別れることになり、とても後悔しました。その後、別の恋人と関係を持ちましたが、妊娠はしませんでした。たぶん、2回の中絶で不妊になったのだと思います。女性だけが恐怖を抱いて生きなければならないなんて、不公平です」と言いながらも、「もしピルを飲むように言われたら、躊躇します。ピルは飲まないでしょう。副作用のほうが怖いから」とピルの服用を否定した。

明らかに、日本ではピルは受け入れられないようである。

 

※ 水子地蔵
日本は世界一の中絶が多い国?なぜ日本ではピルが浸透しないのか?地蔵が並ぶこの場を「胎児の墓地」と呼ぶが、正確な言葉ではない。中絶もしくは新生児が死んでも、「ミズコ」(「水の子供」「流れた子供」の意味)は埋葬されないが、その代わり、出産を断念した女性は、思い出として小さな地蔵を買うことができる(約20万円)。日本の寺院の中には、水子地蔵を並べて祭っているところがある。この悲しみの場には、胎児や赤ちゃんの冥福を祈るために、親たちなど多くの人が訪れる。毎年、供養の行事が開催されるが、その費用は千円で、人々は定期予約を申し込んでいる。
お盆の間、それぞれの地蔵の前にはろうそくがともされ、お線香は消えることがない。ベビー服や折り紙の鶴といったお供え物が目につく。
ある僧侶は、「この寺では、1970年から水子を供養しています。この行事は活発になっています」と語った。彼は金儲けに関心がないのだろうが、入場者は千円払い、6人の従業員が切符を売っていた。僧侶は、「供養にやって来るのは若者が多く、中絶者の数は多すぎるし、ピルを服用すればその数を減るだろう」と言うが、他の日本人のように、ピルが悪用されることを心配していた。「男と女がいる限り、中絶はなくならない」と彼は結論づけた。

 

ライター:木村嘉代子(きむら かよこ)

http://bavarde.exblog.jp/349335 フリーライター。北海道で生まれ、静岡県・新潟県で育つ。東京で雑誌の執筆&編集にたずさわり、90年代はロンドンとパリで、主に女性誌の現地ライターとして活動。現地を拠点に、ヨーロッパの美容事情や女性に生き方などの取材活動を続ける。2000年帰国。99年末に帰国し、女性誌や新聞、インターネットなどに執筆している。

 嘉代子さんのブログ『おしゃべりな日々』では、世界の出来事や日々の感じたことを綴っている。

 

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