よく日本人は何を考えているかわかりにくいと外国人に言われる。喜怒哀楽をそのままストレートに表現する欧米人に比べると、確かに日本人の感情表現というのは複雑でわかりにくい。なかでも、外国人にとって一番厄介な日本人の表情は”笑顔”ではないだろうか。外国人のなかには「日本人はあまり笑わない」という人もいるが、筆者はむしろ日本人ほど笑顔の多い国民は他にいないと思う。
反対に、豪快に笑う欧米人は案外笑顔の頻度は少ない。必要以上に笑わない欧米社会に影響されると、本来笑顔が多いはずの日本人も海外生活が長くなるにつれ、だんだん笑顔がなくなってくる。筆者も海外生活5年目だが、日本にいた頃に比べて社交辞令的な笑顔が減ったように思う。
Laugh(ラフ)が少なく、Smile(スマイル)の多い日本人
そもそも、”笑顔”とは何だろうか。”笑顔”は大きく分けて2種類ある。
・ Laugh(ラフ)…面白いジョークを聞いたときなどに思わず出てしまう笑顔。声をだして笑う。
・ smile(スマイル)…礼儀やマナーを気遣った表情のみの笑顔。
外国人の笑顔はラフが多く、スマイルが少ない。反対に日本人はラフが少なく、スマイルが多い。このため”日本人の笑顔”は誤解されやすいのだと思う。外国人がスマイルする時というのは単純に「私はいい人ですよ、あなたと仲良くなりたいです」というフレンドリーなメッセージを伝えるためである。店員がお客さんに作る笑顔や社交の場での笑顔は相手との良好な関係を築くためにつくるものであり、その必要がない場合は笑わない。
反対に日本人はスマイルの意味合いが非常に多岐にわたっていてわかりにくい。欧米人のようにフレンドリーな関係をつくるために笑うこともあるが、欧米人は絶対に笑わないようなシチュエーションで思わず笑顔を作ってしまうのが日本人だ。
例えば、悲しい時。台風や地震の被害に遭われた方が「家の物が全部壊れてしまって大変だった」と笑いながら話すニュースのインタビューがあるが、この笑顔も非常に日本人的である。外国人なら悲しい時は本当に辛そうな表情をするものだが、日本人は悲しい時こそあえて笑顔をつくる。「私のちっぽけな悲しみであなたを不快な気持ちにさせては申し訳ない」という思いやりから笑顔になる。自分の感情を表現するために笑うのではなく、相手にとって最も心地よいと思う表情(笑顔)をつくるから笑うのだ。
他にも気まずい空気になった時や、動揺した時などにも日本人は笑顔をつくる。日本人にとって”笑顔”とは単なる感情表現ではなく、相手に対する思いやりであり、他人のために笑うことは社会的な義務としている面があるように感じる。
笑顔がやめられない“スマイル仮面症候群”
しかしこの”思いやり笑顔”も、度を超すと心身に異常をきたすこともあるらしい。”スマイル仮面症候群”という言葉を知っているだろうか。これは、「感情のままに表情を変えずに、周りを気づかって作り笑顔でい続けるあまりに、怒っているときも悲しいときもずっと笑顔で、笑顔が貼りついているような状態」をいうらしい。これもすごく日本的なシンドロームである。
欧米にもよく微笑む人とそうでない人がいる。欧米人でも周りを気づかっていつも笑顔をキープしている人もいるが、日本人に比べるとやはり非常に少ない。欧米社会でいつも笑顔でいると威厳が保てなかったり、周りに都合良く使われてしまうなど何かと不都合なことも多いからだろうと思う。そのため、様々なシチュエーションでしっかりとわかりやすく自己主張しなければならない欧米社会では、日本人の逆説的な笑顔はやはり理解されにくい。
日本人の笑顔が日本を平和にする
しかし、それでも日本人の笑顔は素晴らしい。苦しい時にも笑わなければいけないというプレッシャーやストレスもあるが、日本人みんなが相手を思いやって笑顔を作るというルールを守っているからこそ、日本は平和である。(いや、実際には、蓋を開けてみると日本も平和ではないが、少なくとも平和に”見える”。)
社会に義務付けられた笑顔であれ、素の笑顔であれ、やはり笑顔というのはいいものだ。本当に嬉しい時にしか笑わない欧米人は正直でわかりやすいが、欧米社会はときに殺伐としているように感じてしまう。
それぞれが相手を思いやって笑顔をつくる。自分を表現するよりも相手の気持ちを優先する。
それが日本社会の良さであり、日本が平和だと言われる所以だと思う。