日本人は有休があっても、消化できない…。そんな話を外国人にすると、いつも驚かれる。
先日、筆者がパリのフランス語教室で、”バカンスの過ごし方”について外国人たちと議論した時の話だ。
その場にはロシア人、ウクライナ人、トルコ人、アイルランド人、ポーランド人、オランダ人、フランス人がいたのだが、彼らヨーロッパ人のバカンスの過ごし方と言ったらすごい。毎年夏になれば小型船を貸し切って、メイドを雇ってご飯や掃除などをしてもらい、自分たち家族はゆっくり過ごすという豪華なバカンスを楽しむトルコ人。親子で2週間キャンプをするオランダ人。バカンス村に子どもを預けて夫婦だけで3週間海外旅行にいくフランス人。
それぞれがそれぞれのバカンスの過ごし方を説明するなかで、筆者は日本のバカンスをこのように説明した。
「日本はあまりバカンスがありません。8月に1週間、お正月に1週間程度です。有給休暇は年20日近くはありますが、取りにくいです。」
すると、すかさずロシア人に質問された。
「なんで有給が取れないの?みんなほしいと思っているでしょ?有給とったら、会社の人に悪く言われてしまうのですか?」
確かにその通りだ。誰もがほしいと思っている有給休暇なのに、なぜそれを消化できないのだろうか?
厚生労働省の調べによれば、2007年の労働者1人あたりの年次有給休暇の付与日数(平均17.8日)のうち、取得日数は8.5日と半分も取得していない状況だ。
2008年度の調査によると、労働者の約3分の2は、年次有給休暇の取得に「ためらいを感じている」と答えた。「ためらいを感じる」理由としては、「みんなに迷惑がかかる」「後で多忙になるから」。
他の人に仕事が増えるのではないかと気づかい、”仕事できないくせに休みだけはしっかりとる”と思われるのではないかと不安になって、「それじゃ、遊んでくるよ!」と会社を離れづらい”空気”なのだろう。
他人を気づかい、空気を重んじる日本人。「みんな仕事を頑張っているのに自分だけ休むわけにはいかない」という気持ちが根底にあり、周りが休んでいないから休まないというのが現状なのではないかと思う。
こうなると、日本人が有給休暇を消化するには「みんな休んでいるから私も休む」という状態にまでもっていく必要がある。全ての被雇用者が有給休暇を100%近く消化するという状況にならない限り、自分勝手が許されない日本社会では有給休暇をつかったバカンスはいつまでたっても普及しないだろう。
しかし、仮に日本人がヨーロッパ人のように有給休暇を全て消化したとすると、現実には問題が起きる。それは、祝日と合わせると日本は休みが多くなりすぎてしまうという問題だ。
フランス人をはじめ、有給休暇日数の多いヨーロッパ人たちは祝日と土日の間の曜日を有給休暇にあてる。例えば、木曜日が祝日で休みの場合は金曜日に有休をとって、木曜~日曜まで4連休をとるのだが、これと同じことを日本がしてしまうと、2015年の暦では5月と9月で9連休がとれるようになってしまう。
それに加え、お盆休みの5日間、お正月休みの5日間を加えると、1月、5月、8月、9月、12月で大型連休がとれるということになる。しかし、これでは仕事が片付かない会社がほとんどなのではないだろうか。
スペインやフランス、ドイツなどのヨーロッパ国と比べると、確かに日本の有給休暇(平均17日)というのは少ない。しかし、ヨーロッパと同じように30日近い有給休暇を与えてしまうと、1年中”ちょこちょこ”と休み、加えて2週間の夏休みバカンスという”休んでばっかりの国”になってしまうわけだ。
フランス人たちは有給でバカンスに行くことを人生の楽しみにしているような国民だが、バカンスの8月以外の月は仕事に集中してメリハリをつけている。祝日が日本のように多くはなく、振り替え休日もないせいでちょこちょこは休めないが、だからこそ夏に大きく休みをとる。メリハリがあるおかげで、バカンス休暇を申請しやすい環境ができているのだ。
逆に、日本は1年中ちょこちょこと祝日があるせいで、「そこそこ休んでいる」気にさせられてしまう。だからなかなか”2週間まとめて休みをとろう”という気にならない。そして、そこそこ休んでいるせいで、他に休みをとってしまうと、どうしても他の社員に迷惑をかけてしまう。他の社員に迷惑をかけることがわかっているので有給の消化をためらってしまい、ほとんどの人が半分以下しか消化しないという悪循環に陥ってしまうのだ。
結局のところ、日本で有給休暇の消化が出来ない理由は「祝日が多すぎるから」なのである。外国に比べて、休みが少ない日本のために増えていった祝日なのだが、実際にはその祝日が原因で有給を消化できないという何とも皮肉なループにはまってしまっているというのが現状だろう。
日本でバカンスを普及させるには、祝日を減らすしかない。ちょこちょこと細切れのように休みをとるのではなく、まとめて休みをとるように国がすすめていかない限り、ヨーロッパのような優雅なバカンスは夢のまた夢だろう。