「批判的思考力」という言葉を知っていますか。英語ではクリティカル・シンキング(critical thinking)といいますが、これは平たく言うと「見かけに惑わされず、多面的にとらえて本質を見抜くこと」を指します。“批判”という言葉で始まるので「否定」や「非難」というネガティブな意味と同義だと捉えられてしまうこともありますが、実際ここでいう批判とは情報を分析、吟味して取り入れることを指し、客観的把握をベースとした正確な理解を意味します。
もともと、集団主義国(日本、中国、インド、ロシアなど)のような厳格な社会においては批判を非常に嫌い、年長者のいうことに疑問を持たず従うことを求められ、無批判的な権威主義的な態度が望ましいとされることから批判的思考力が育ちにくいと言われています。実際に日本で英語を教えている外国人講師のなかには「日本の学校教育では批判的思考力が育たない」と指摘する人も多いです。
そのため、日本ではこれまであまり注目されてこなかった“批判的思考”ですが、欧米では35年以上前からこのクリティカル・シンキングが子どものころから教えていくことが大切だと議論されてきました。グローバル化する世界で活躍できる日本人を育てていくためには、言われたことを素直に受け入れるだけでなく、本質を見抜いて客観的に分析し、自分の言葉で説明する力が必要とされるのではないでしょうか。
そこで今回は、実際に個人主義(ヨーロッパ、アメリカ)で提唱されている「子どもの批判的思考力を育てる方法」をここで紹介したいと思います。
How to Raise a Kid Who Thinks Critically
リサ・ウィルソン先生がアローヨ・セコ小学校4年生の社会科の授業で、アメリカ独立戦争教えていた時の話。ある生徒がこんな質問をしました。
「どうして国民は政府支持者と戦おうとしたのですか?」
するとウィルソン先生はこう答える。「どうしてだと思いますか?」
アローヨ・セコ小学校では生徒の好奇心によって授業が進んでいき、思考を介さない丸暗記による学習を軽視しています。この教育アプローチは、子供たちの批判的思考力を伸ばすための大切な要素です。
「この教育方法では、子どもたちがインヴェスティゲ―タ―(調査員、研究員、捜査員)になるようにすすめています。そうすれば、子どもの創造力や革新などをぐっと引き出すことができると思うんです。」
そう語るのは、アトランタのジョージア州立大学のAmy Seely Flint教育学教授。彼女いわく、子どもの批判的思考力は学校だけでなく、家庭でも伸ばすことができるそうです。
家庭内で批判的思考力を育てる5つの方法
子どもに戦略を練らせる
子どもが宿題の内容を理解していない時にしゃしゃり出て教えていませんか?子どものサッカーの試合と友達の誕生日会が重なってしまった時にどうすればいいか、子どもの代わりになって計画を立てたりしていませんか?もしそのようなことをしてしまっている親なら、子どもの批判的思考力を育たないかもしれません。
「批判的思考をする人は問題が起きた時の解決能力が高いです。こういった問題対処の練習を子どもの時からさせておかないと、自分で解決方法を生み出せない人になってしまいます。」と、前出のウィルソン先生は語る。子どもに解決方法を教えるのではなく、子ども自身が自分で考えて解決方法を練ることが大切なのです。
中途半端に物語が終わる本を見つける
英語では中途半端に終わる作劇手法のことをクリフハンガー(cliffhanger)といいますが、この手法は、観劇する者に「自由に物語の結末を想像させる」ことが特徴です。最近の日本のドラマでは「半沢直樹」の第2部のラストシーンがクリフハンガーでした。
このような本を探してきて子どもに読んであげ、「書かれていない部分」の結末を子どもに想像させるのです。子ども自身の経験や、本に出てきた情報を元に、子どもがどんな答え(結末)を導き出すのかじっくり聞きましょう。
思考プロセスを広げてあげる
批判的思考力を育てることに力を入れている学校は、子どもたちは違った方向からも物事を捉えるように勧めています。そんなボストンの小学校で教師をしているAimee Brennは言います。
「小学2年生のクラスでは小さなグループをつくって、議論させるようにしています。これくらいの年齢の子どもはクラスのみんなの前で発表するよりも、少人数のグループのなかでのほうが自分の意見を言いやすいようです。」
様々な意見を子どもに触れさせましょう。「賛成意見」と「反対意見」の両方が書かれた記事を見つけ、家族や友人と話すときにこのようなトピック(例えば学校に服装規制は必要か)について議論してみましょう。子供に意見を聞き、耳を傾けましょう。
ニュースを話し合う
「最近あった出来事について話し合うのは、子どもから“はい/いいえ”以外のコメントを聞き出すことができるので、批判的思考力を育てるのに有効です。」そう語るのは、バージニア州エピスコパルスクールの校長、Kitty Rotellaさん。
子ども向けのニュースサイトから記事を選び出して、それを子どもと一緒に話し合ってみましょう。日本では「朝日小学生新聞」や「子どものニュースウィークリー」などで、子ども向けのニュースを閲覧することができます。これらの媒体はニュースを子ども向けに簡単な言葉で書いたもので、子どもに質問を投げかけるような内容のものが少ないのが残念なところです。しかしながら、これらの媒体を利用して子どもにわかりやすくニュースの内容を教え、意見を聞いてみるといいでしょう。
子どもに過去を振り返らせる
「過去の成功体験や失敗体験を振り返ることも、子どもに批判的思考力を身につけさせるうえで大事なことです。」と、ニューヨーク市Léman Manhattan Preparatory SchoolのRachel Griffin校長は言います。
しかしながら、子どもに出来なかったことを振りかえさせるのは簡単なことではありません。例えば、子どもが工作やレゴのタワーを作ったときは、何ができたかと、逆に何をすればよかったと思うかを聞いてみましょう。
まとめ
要するに、親がなんでも教えてあげるのではなく、子どもに自分で考える機会を与えてあげることが大切なのだと思います。子どもが自分で考える力を身につけるためには、いろいろな人の意見を聞き、多面的に、客観的に物事を捉える道筋を作ってあげることが、親としてできることなのかもしれません。
また、国の教育としては従順さだけでなく、“自分の意見をしっかりもった”世界で活躍できる人材を育てていくために、暗記ばかりの試験対策勉強以外の創造的な学習に力を入れていくべきだと思います。
参照:parents.com 写真:Thomas Hawk