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外国人大学講師 『なぜ日本では外国人研究者が増えないのか?』

「なぜ、もっと多くの欧米の研究者が日本に来ないの?」

そう語るのは、名古屋商科大学(NUCB)外国語学部で研究者をしていたイギリス人女性、バートン・スーザンだ。ひょんなことから日本の大学教授の募集を見つけて応募し、1週間以内に採用の通知を受けた。その一カ月後には日本での生活が始まった。

実は彼女はそれまでに、日本の高校の英語講師の経験を2年、東京の大学での在学経験も2年ある。欧米人教育者は日本の”奇妙なところ”を不快に感じ、どんなに勉強しても理解不能な日本語の難しさから日本滞在を敬遠するのだ。

日本の大学では”日本人の見た目ではない”外国人研究者が5%ほど在籍しているが、実際には大学の“国際化”をアピールする道具に過ぎないそうだ。また、日本の大学ランキングで上位にある大学以外では、大学講師は終身雇用制のため、論文を提出したり、会議に出席することを強制されることはない。つまり、目標ややりたい研究などがはっきりしていない研究者にとっては墓場となりうるわけだ。

ヨーク大学で博士号を取り、現在日本の南山大学で講師をしているティー ヴェインは、語る。

“会議に出席しなくてもいい、論文も提出しなくていい。外国人講師は日本で教えていると、まるでホリデーのように感じてしまうのです。自分探しのために日本の大学に来る外国人研究者もいますが、自分の将来や研究がかかっている時期に、自分を探しに日本に行くというのはあまりいいアイデアではないですよね。”

このぬるま湯のような大学の環境が、海外進出までして研究をしようとするモチベーションの高い研究者には合わないのかもしれない。日本人のほうも外国人研究者を「一時的なお客さん」と捉えているので、日本人研究者の労働規約とは異なっている。例えば東京大学では、外国講師は5年間契約だ。契約が切れると、他の大学を探したり、帰国の道を選ぶ。”国際競争に勝つ”とうたっている日本トップレベルの大学も、実情はこんなものだ。

スーザンさんはこれまで、日本人の同僚が自動的に”終身雇用”を手に入れている横で、契約期間が切れそうになって焦る外国人講師を何人も見てきた。彼女自身も終身雇用として採用しようかと提案されたこともあるそうだが、その理由は「仕事の評価」だけではないと、彼女は思っている。

日本の大学には外国人女性講師というのが非常に少なく、大学のシラバスには彼女の年齢と顔写真を載せるようにされているらしい。そして、その数少ない外国人女性講師はそのほとんどがブロンド(金髪)だそうだ。

彼女いわく、日本の教育機関は保守的で、男性優位の制度であり、女性はいつもセカンドクラスの住人だ。セクハラだって日常であるが、逆にこのような環境だからこそ、”外国人女性講師”としての自分の役割やインパクトが大きいのではないかとスーザンさんは語る。

日本の学生に講義をするなかでも、驚くことは多い。一般的に、日本の学生は講義中はとても静かで、話すこともなく、質問もしない。年上を敬うことが大切とされている社会では、目上の人に意見しないのだ。学生の多くは講義中にスマホを触ったり、化粧したり、居眠りするが、これは彼らが授業のディスカッションに“参加する”という意識が最初から欠落しているからである。日本では、自分の意見を他人に通したり、大胆なことを言うのは子どもっぽいとみなされている。

しかし、実際に学生たちに話しかけ、彼らに何を期待しているかを説明してモチベーションを上げるように指導すると、日本人の学生は期待以上の働きをしてくれることも確かである。

明治学院大学でイギリス文学を教え、日本滞在歴21年のハラ・ポール准教授は

「日本で教育に携わって、僕は成長でき、とても満たされた想いです。講義するクラスのひとつひとつが、私に新しいことを教えてくれます。講義はより良い人間になるためのチャレンジのようで、生きている実感が持てます。」

と語っている。スーザンさんが日本で外国人講師として働いて一番良かったことは、「新しい考え方、生き方を知って視野が広がる機会を得られたことだ」と語っている。確かに、日本人は、欧米人とは違った見方や考え方をする。

例えば、欧米人は部屋に入ると、最初に全体に何があるかを見るが、日本人は物の間のスペースに注目するらしい。これを知り合いの建設業者に聞いたときは、「なるほどな」と思ったと、彼女は言う。

「日本には面白い思い出がいっぱいあるわよ。」

彼女は、外国人講師として日本にいた時間をこのように振り返る。

職場の旅行での山登り、温泉で裸になりながら学生と英語の文法についてディスカッションしたこと、蛇やクモとの闘い、台風の日にシャッターを下ろして家の中に閉じこもったこと、東日本大震災の時にテーブルの下に隠れたこと、福島原発事故の後の帰宅難民。クジラを食べるのを拒否して、皿から出ようとする動いている伊勢海老も食べられなかったこと…。

夏は毎日気温が30度以上で、夜中によく、パジャマ姿でコンビニに行ってアイスクリームを買ったっけ…。これも犯罪発生率がとても低い日本だからこそできること。バスのなかにスマホを置き忘れてしまったときなんか、バス会社が連絡してくれて、1時間以内に渡しにきてくれた。日本の顧客サービスのレベルは”最高峰”を超越している。電車だっていつも時間通りだし、スプレー缶の落書きだって滅多にない。

私が日本を離れるということが噂になったとき、一人の女性生徒が走って私のところに来て、興奮したように私の腕をつかんで、こう言った。
“じゃあ、先生もついに結婚するんだ!”

ノー!日本の女性が願う”女の幸せ”っていうやつは叶わないけど、仕事を辞めたのは帰国して両親に会って、またしばらくイギリス人にならなきゃいけないからなの。もちろん、日本人講師のように終身雇用として採用されていたなら、研究休暇をとることもできたかもしれないけど、残念ね。

日本にはとても感謝している。日本で過ごした時間は素晴らしかった。日本が私にしてくれたように、私が教えた学生たちも私からポジティブな影響を受けることができていたらいいな。

参照:Times Higher Education

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2 コメント

  1. 外国籍の方の大学での採用が少ないのには3つ理由があると考えます。1つ目は日本の『学閥』。大学は研究の場ですし、給与が出る研究者の在籍数は限られています。特に理系の院卒の就職先となると限られて来ますので大学の就職数の成果にするため、後々教授選に勝つための票確保のため等々から出身校の院生をそのまま持ち上がりで研究者にする場合が多いと思います。二つ目は、『言語の壁』。海外の大学と異なり、日本の教授は授業の他に様々な雑用をこなす必要があります。日本語能力が一定の水準に達していないと、大学や省庁との予算の交渉や学生の就職先を斡旋する際の企業とのやり取りは難しいと考えます。3つ目は大学の『調査能力の限界』、学会で論文発表を行い結果を出している、賞を獲っている著名な研究者を除き海外の大学院卒の証明書について日本の大学が調査する能力が低いためリスクを冒したがらないことが挙げられると考えます。

  2. 終身雇用が確約されている日本の大学で外国人講師を雇うのは結構、勇気のいる決断だと思います。が、国を挙げて推進しているグローバル化のためには、外国人講師以前に留学生をもっと増やすところから始めないとダメでしょう。記事にもあるように論文を書かなくても首になることは滅多にありません、一方で、大学入試やセンター試験の作問・試験監督、各種の委員会などには出席させられるのは外国人講師も同じです。
    外国人が日本の大学に就職する理由を尋ねると、「アメリカはテニュア制度があるが、余りにも競争が激しく長期にわたってストレスに晒されるので、テニュアを所得すると論文を書かなくなる研究者は多い。それでも素晴らしい研究を続けられるタフな精神を持った研究者は一握りしか居ない」。確かに日本はぬるま湯かもしれませんが、ギスギスした雰囲気は無いでしょうね。「誰が何処の大学(ハーバード、スタンフォードなどトップ大学も含む)でテニュアを所得したかを暴露するサイトまであって、精神的に病んでしまった研究者もいます」。日本の大学は基本的に守秘義務でアメリカは公開主義という形態ですが、当の本人にとっては堪らないでしょう。
    最近の話ですが、MITを蹴って日本の大学に就職した理系の研究者もいるので、大学を取り巻く環境は変わりつつあると感じています。それと「欧米の大学環境は素晴らしいが、生活という観点からは日本の方が面白いものがたくさんある」と言う意見もあります。ケンブリッジ大学は良くても味気ないイギリス食文化といった処でしょうか。それと日本人研究者で欧米で成功した人の大半は、日本の大学で研究をしてスカウトされた例が殆どです。向こうの大学・院から出発して欧米の一流大学の研究者になった日本人は殆どいません。
    日本人には日本の研究環境が適合していると思いますが、それでももう少し外国への留学生が増えても良いでしょう。

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