日本人といえば、海外でどんなイメージを持たれているだろうか。
真面目で責任感が強く、礼儀正しい。時間に厳しく、働き者。犯罪が少ないが、自殺が多い。漫画、アニメに加え、落語や歌舞伎などの伝統芸能を楽しむ。寿司、空手、ハイテク、ロボット。厳しい社会、過労死、オタク、コスプレなど。
ここらへんが、外国人が「日本人」と聞いてイメージするステレオタイプだろう。しかし、ここフランスでは、それが最近変わりつつあるようだ。
去年の秋ごろ、フランス人の夫が会社から帰ってきて、ポツリとこう言った。
なんか最近、会社の同僚に「日本人と結婚して大丈夫?」ってやたらと心配されるんだけど。
日本人は「愛している」とパートナーにも言わない。手をつなぐ、キスをするなどのスキンシップも全くない。どの夫婦もセックスレス。・・・日本人ってこうなんでしょう?大丈夫なの?
というようなことを、遠回しにやんわり聞いてくるらしい。こういうお節介をある日を境に、急に聞かれるようになったという。
旦那が会社で、日本人妻についてあれこれ聞かれるようになったのは、フランスのテレビ局『M6』で、10月に放送されたENQUÊTE EXCLUSIVEというドキュメンタリー番組のおかげだ。
この回のテーマは題して、”Le sexe et l’amour en crise au Japon”。「日本におけるセックスと愛の危機」という放送だった。
番組では、日本人の「愛とセックスの危機」を象徴するものとして、次の項目を挙げて紹介している。
- 一人でもドレスを着たい!ソロウェディング
- 男性とうまくしゃべれない女性のための「レンタル彼氏」
- 人肌恋しく、添い寝カフェに行ってみたオタク
- ゲームや漫画で性欲が満たされるオタク
- 結婚したいのに出会いがない人のための婚活イベント
- 結婚すると子供中心で、カップルではなくなってしまう夫婦
- 夫婦のセックスレスを解消する家づくり
- ラブドールにハマる、妻と別居中の男性
- 人気AV男優しみけんの日常
- フランス人と日本人のお見合いパーティー
フランスは先進国でありながら、少子化を克服している国である。国をあげての少子化対策がされた国であるからこそ、フランス人は「日本の少子化問題」を、日本人以上に深刻に見ているように思う。
さらに、アムールの国フランスと呼ばれるほど、国民性として「色恋好き」な人が多い。もちろんフランス人でもなかなか出会いがなくて困っている独身者もたくさんいるが、おそらくどんな人も愛を求めていると言ってもいい。「彼氏・彼女なんていらない」、「一人のほうが気楽でいい」という人は、日本に比べるとかなり少数派だ。
このような背景もあり、日本人の恋愛やセックスに淡白なところが、フランス人には奇異に映り、また同時に好奇心を掻き立てるのであろう。フランスのテレビ視聴者が興味を持ちそうな内容だからこそ、番組制作者やメディア関係者はこういった日本の「一面」をこぞって取り上げる。
しかし、問題はこれを視聴するフランス人が、どこまでが「日本人一般」に当てはまるのか理解できていないという点だ。
確かに、日本では昔に比べて「恋愛離れ」になってきている。それは事実だ。しかしだからと言ってみんながみんな「レンタル彼氏」を利用するわけでもなければ、ラブドールとのセックスにハマっているわけでもない。ソロウェディングなんてのをやってのける女性だって、全体から見ればかなり少数派だろう。
ゲームや漫画で性欲が満たされるオタクや、婚活イベント、カップルではなくなってしまう夫婦ぐらいは社会的な現象として語ってもいいかもしれないが、それにしてもあまりにも一面的な見方をしている。これに全く当てはまらない人のほうが、むしろ多数派であるのに、それについては一切触れない。ステレオタイプの植え付けをされているようで、見ていて気分が悪い。
しかし、この番組を見たフランス人の感想を聞いていると、どこまでが「日本でも珍しい」ことなのか、その線引きがあまりできていない人が多かった。
まぁ、そりゃあしょうがないのかもしれない。なんてったって、フランス人からすれば、「日本は遠いアジアの国」。「フランスとは何から何まで違っていて当然だ」という先入観を、フランス人たちは番組を見る前から持っている。
そんな先入観を持ち、先入観を持っていると自分で気がついてもいない視聴者に対して、「日本はこんなに変わった国なんだ」というシーンを次々に見せる。ほらね、やっぱり日本ってフランスとは違うんだ。
この「やっぱりね」という気持ちにさせるのが、番組のミソだ。視聴者はみな、自分が実際に見たような気になって、テレビを通して日本を知った気になる。テレビや雑誌で見聞きすることを鵜呑みにし、「だって○○で見たよ!」という。
筆者は、「日本人男性は本物の女性と会話ができないんでしょ?」と、フランス人女性に本気で聞かれたことすらあるが、こんなステレオタイプが出来上がってしまうのも言ってみたら仕方ないことなのかもしれない。これがメディアの力というやつなのだろう。
しかし、これは何もフランスのメディアだけに当てはまることではない。日本のテレビ番組だって、立派に腐っていると思う。
以前、テレビが日本人をダメにする『世界の日本人妻は見た』出演拒否された友人の話という記事を書いたが、こういう「外国はこんなに変わっている!」ことを伝えるのが趣旨の番組はどうにも見ていて、腹が立ってしまう。日本の製品や日本文化について、外国人にインタビューして日本がいかに素晴らしいかを褒めてもらう番組も同類だ。
そしてこういうテレビ番組に共通して言えるのは、吹き替えがひどいということだ。フランスで放送される日本人に関するドキュメンタリーもそうだが、わざとバカっぽい声を出すように指示されているのかと疑ってしまうほど、声がマヌケだ。言っていることもマヌケ。訳の仕方もオリジナルの言語とは少し違ったり、日本の番組では丸っきり変えられていることも珍しくない。
毎週放送される番組に、ディズニー映画の吹き替えほどのオリジナルに忠実な吹き替えをお願いするのは無理のある話なのかもしれないが、それにしてもひどい。情報操作・印象操作以外の何物でもないと思う(外国語を理解する人にはこの点は共感を得られるはずだ)。
とはいえ、テレビや雑誌の誇張やねつ造、情報操作は何も今になって始まった現象ではないし、今後も完全にくなるのは難しいのかもしれない。しかし、情報があふれる時代になったからこそ求められるのは、見る側のリテラシーだ。
テレビや人から聞いた話に流されず、しっかりと自分の目で見て、体験して判断する。
こういった姿勢が、これからの国際社会に求められる、真の国際力ではないだろうか。