ホームジャパン「里帰り出産」は日本人特有!フランス人と日本人の家族観の違いとは?

「里帰り出産」は日本人特有!フランス人と日本人の家族観の違いとは?

日本では、出産のために一時帰省する「里帰り出産」を選ぶ人が非常に多い。インターネットサイト「こそだて」の妊娠・出産に関するアンケートによると、「里帰り出産した人」の割合は6割弱であった。里帰り出産は、日本の「出産文化」ともいえる。

里帰り出産は育児の先輩である実母が側にいる心強さや、慣れ親しんだ家や町で過ごす安心感はもちろん、料理や洗濯といった家事をしてくれる人がいて、赤ちゃんのお世話に集中できるというのが大きなメリットらしい。

最近は、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSでも、里帰り出産したママの投稿をよく目にするが、筆者はこれを見るたびに、「実に日本的だなぁ」と思う。欧米から見ると日本の「里帰り出産」は奇異なのだ。もちろん、日本以外にも里帰り出産をする国はあるが、欧米に関して言えばほぼゼロに近いのではないだろうか。

里帰り出産は、日本人の結婚観、夫婦関係、家族観、はたまた日本社会全体の「象徴」であると言っても過言ではないと思う。

筆者はこれまで出産したこともなければ、育児をしたこともないので、里帰り出産をする夫婦にどうこう言える立場ではないし、結局は夫婦それぞれが自分たちの生活に一番合った出産方法を選択すればいいと思う。しかし、日本での”当たり前”を少し別の角度から見てみるのも面白いし、学べることも多いのではないか。

そこで今回は、日本では主流の「里帰り出産」は、フランス人から見たらどう見えるのか?を紹介する。もちろん、フランスの子育てのほうが日本より優れているというわけではないし、どちらの考え方が正しいというわけではないが、両者の”違い”を知っておくことで、より良い家族関係を築くヒントになるかもしれない。

 

フランスでは、「里帰り出産」は絶対にありえない

フランスでは「里帰り出産」という言葉もなければ、出産のために長期間里帰りしたという人の話も聞いたことがない。実際に日本での里帰り出産の現状を説明してみると、予想通りフランス人にはかなり不評である。それには2つの理由がある。

まず、理由のひとつ目が「旦那がかわいそう」だ。

里帰り出産した人の里帰り期間を見てみると、2カ月間以内という人が最も多いが(45.4%)、これだけ長い期間、夫婦が別々に暮らすと言うことがありえない、といった感じだ。その間は旦那は赤ちゃんに会えないのか?、旦那は蚊帳の外なのか?、旦那はそれでいいの?旦那も奥さんも互いに会いたいと思わないのか?、元々夫婦関係が悪いってこと?と頭にハテナがいっぱいのようである(ただこのなかに、「その間の旦那の家事や食事はどうするのか?」という質問がないところもフランス人らしい)。

さすがはアムールの国。日本人とフランス人の家族観の一番大きな違いがここにある。

  • 日本人の家族 ・・・子どもを中心に、両親がいる
  • フランス人の家族 ・・・夫婦の男女関係を軸に、子どもがいる

これが日本人とフランス人の家族観の根本的な違いだ。芥川賞作家の藤原智美氏は、著書「家族を『する』家」のなかで独自の家族観をこのように論じている。

「家族の軸は夫婦である。夫婦の軸が揺らいでも、親子関係だけはスムーズにいく、子供だけは上手く育つ、と考えるのは全く愚かなことだ」

夫婦関係をしっかりと構築すること、夫婦のコミュニケーションをしっかりととることがまず第一だとする彼女の考え方は、非常にフランス的である。子どもにすくすくと幸せに育ってほしいと願うからこそ、たまには子どもを預けて夫婦だけで食事にする時間を作り、夫婦の絆をより強固なものにしようと努力をする。

フランス人たちはパパ&ママ本人たちが自分勝手に外食したいからそうするのではなく、男女として2人だけで過ごす時間が、巡り巡って子どもにいい影響を与えると信じているからこその行動であり、努力して時間を作っているというパターンが多い。

しかし、だからと言ってフランス夫婦の離婚率が低いかというとそうでもなく、単純に夫婦の時間をとれば長続きする仲良し夫婦でいられるというほど簡単な話ではない。

しかしながら、フランスは社会全体で子育てより夫婦関係を優先させることをすすめており、このへんは夫婦関係が淡白になりがちで、セックスレスや少子化が問題視される日本は、もう少し取り入れてもいいのではないか、という気がする。

里帰り出産をするのは日本人だけ!フランスから見た不思議な日本の家族観

さて、日本の里帰り出産をフランス人に説明して、次に多い反応は、「親に頼り過ぎ、甘えすぎ」というものだ。

そもそもなぜ、親に頼ることを前提に子育てをスタートするのか?、実際に子育てをするのは祖父母ではなくパパ&ママじゃないのか?親としての責任がないのか?まだ子供のままでいたいってこと?…と逆に質問される。

フランスでは日本以上に、「子どもを甘やかせる親」に対する風当たりが厳しい。学校でも家でも、挨拶とマナー、お礼や謝罪はしっかりとしつけられるのはもちろん、子どもが泣くたびにすぐに飛びついて駆け寄っていては子どもの自立に良くないと考えるのが一般的なようだ。

小さな時からこのような親子関係を良しとされているので、大人になっても母と娘がべったり依存関係にあることをフランス人はかなり批判的に見ている。ましてや、親になろうとする娘を子ども扱いして甘やかせるとは何事だ、と言った感じだ。

ちなみに、フランスで最も売れている妊娠本 『j’attends un enfant』には、こう書かれている。

Devenir mère, c’est aussi pour la femme se détacher de sa propre mère pour assumer les responsabilités qui découlent de son nouveau statut.

母親になるとは、女性が実母から自立するためにあるとも言えます。新しい母親という身分に生じる責任を引き受けるためにこれは必要なのです。

本著では、妊娠中はホルモンの影響で体調が崩れやすく、精神的にも不安定になりやすいため、実母に頼りたくなる妊婦が多いとしながらも、この時期を「親からの完全な自立期間」と捉えている。自ら親になるまでの妊娠中は、親になる責任感を養うためにも実母であれ義母であれくっつきすぎず、ある程度の距離感をもって接することをすすめている

妊娠中の女性が真剣になって読む本だからこそ、こういった売れている妊娠本に書かれているアドバイスの影響力は大きいだろう。

以上2点から、旦那との夫婦関係を大切にせず、最初から親に頼って里帰り出産をする女性というのは、フランスではすこぶる評判が悪い。自分が楽をすることを第一優先にした身勝手な母親だと、ジャッジされてしまうだろう。

しかし、日本で里帰り出産をした人の体験談を聞いてみると、フランス人もそんなに厳しく批判はできない「日本特有の事情」が見えてくる。

そこで次回は、なぜ日本人は「里帰り出産」を選択するのか、日本社会の何が「里帰り」を後押しするのかを、フランス社会の事情と比べて説明しようと思う。

次回、どうぞお楽しみに。

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