フランス人の喫煙者にはやれやれだ。
以前は喫煙者だった筆者の旦那が、日本に来たばかりの頃はひどかった。灰皿のない所で平気で歩きたばこをする。もちろん、携帯灰皿なんて邪魔臭いものは持ち歩かないので、吸殻はポイ捨てが基本だ。カラオケに行ったときなんかは灰皿に煙草を捨てるのではなく、吸殻を床に落とすので、かなり憤慨した。
フランス人はあっちでプカプカ、こっちでプカプカ。
全く非常識な奴らだ。彼らに日本での喫煙マナーを教育するのに苦労したことは言うまでもない。しかし、フランスで生活して数年が経った今となっては、彼らがなぜ日本であれだけ非常識だったのか、その理由も理解できるようになった。
彼らの常識は、日本の常識とは全く異なる。
例えば、喫煙場所。日本では「灰皿が置かれてない所では吸わない」というのが喫煙者のマナーだが、フランス人は「屋根がない所では吸わない」というのがマナーだである。
これは2008年のエヴァン法施行に起因する。フランスでは2008年以降、カフェ、レストランなどでの喫煙が全面的に禁止された。それまでバーカウンターで煙草を吸っていた人は全員が外のテラス席や入口の前(灰皿がないこともある)で、煙草を吸うことが習慣となった。「なかでは吸えない」、「吸いたかったら外に出ろ」というのが、この法の施行によって生まれた新しい喫煙マナーのスローガンとなり定着した。
だから、このように規定されたフランスの喫煙場所は、日本人からすると理解不能な面もある。例えば、去年のパリ同時多発テロで話題となったスタッドフランス。
この会場をコンサートなどで使用した場合、ステージ近くの立見席はちょうど屋根がないので、「喫煙可能」である。たくさんの人が密集している場所で、ある程度閉鎖された空間なのに喫煙できるというのには驚きだ。屋根がないという理由で”屋外”となるという杓子定規的な既定の仕方も、なんとも合理主義なフランスっぽい。
2008年のエヴァン法施行以前は、喫煙者はレストランでも煙草を吸っていたが、多くの人はバーカウンターで吸っていた。そして、驚くべきことにこのバーには灰皿がなかった。みな、吸い終わった煙草を床に落とし、靴裏で踏みつける。時折、バーテンダーがたまった吸殻を集めて捨てていたそうだ。
日本のカラオケボックスで、フランス人が吸殻を床に落としていたのは、こういった背景があるようだ。
しかし、喫煙者に対して寛容にも思えるフランスのたばこ事情だが、フランスが世界に比べて喫煙者に対して厳しいことがひとつだけある。
それは、煙草のパッケージだ。フランスでは2016年度末までに煙草のパッケージをメーカーに関係なく、一律で以下のように規制する。
煙草のブランドも小さく表示し、字体も全て統一する。パッケージの箱も全てダークグリーンとし、喫煙の警告写真を大きくする予定だ。この新しい法が施行されれば、フランスはオーストラリアに続いて、たばこ会社のマーケティング力を奪う2番目の国となる。
この5年間で喫煙者数を5%減らすことが、フランスの保健相の狙いである。特に近年、増加傾向にある若年層の喫煙者を減らすのが目的だ。
フランスはヨーロッパのなかでも最も喫煙者の多い国の一つで、WHOによると男性の32%、女性の26%が喫煙者である(日本は男性32.2%、女性8.2%)。フランスの10代の3分の一が煙草を吸っており、2015年の調査では喫煙率は年々増加している。フランス保健相によれば、フランスでは成人1300万人が喫煙しており、毎年7万3000人が煙草によって死亡している。
このような背景もあり、非常に厳しくなりつつあるフランスのたばこパッケージだが、数年前まではたばこの広告も許されており、その内容は現在とは大きく異なる。
例えば、写真左は1931年の煙草の広告。右は1990年代のものだ。Le style de vos 20ans(20代のスタイル)というメッセージも若者に喫煙を促すものであり、今ではこのような広告は考えられない。
喫煙者を減らすことを目標に、大きく規制され始めたフランスのたばこパッケージ。
喫煙者が減ることは万々歳だが、今後は喫煙者のマナーも厳しく取り締まってほしいものだ。
参照:Le Monde