パン屋とコンビニ。
異なる2つのお店だが、フランスのパン屋と日本のコンビニには共通点がとても多い。フランス人にとってパン屋とは生活に根付いているという点で、日本のコンビニと同じである。
どんな食事にもバゲットが付いてくるフランスでは、パンを買うという行動は毎日行う日課である。1日経つとカチカチに固くなり食べれなくなるバゲットは、その日のうちに調達しなければならない。フランス人たちは家族全員が食べるパンを、昼と夜の1日2回買いに行く。夕方の6時ごろから、仕事を終えたサラリーマンがパン屋に並び、行列ができる。毎日食卓に並ぶパンは、フランス人の毎日の食事に欠かせない食べ物の1つだ。
毎日買いに行くから、家の近くにあるパン屋の良しあしがとても重要だ。近くにパン屋がないと、とても困る。最近、いつも通っていた近所のパン屋が潰れたが、我が家にとってはとても痛い。これまでフランスで4回引っ越ししたが、部屋を見つける時に必ずチェックするのは、最寄りの駅とスーパー、そしてパン屋である。
日本で部屋探しをすると「駅まで5分、コンビニ近く」なんていう文字が出てくるが、これがフランスだと「駅まで5分、ブランジェリー(パン屋)近く」になるかもしれない。
一方、日本人の生活に最も馴染んでいるお店といえば、コンビニエンスストアだ。ディムスドライブによる2010年の調査によると、コンビニを毎週利用する人は全体の67.5%で、一人暮らしほど利用頻度が高い傾向にあるそうだ。何から何まで自分一人でこなさねばならない一人暮らしにおいて、コンビニは「毎日足を運んでも構わない場所」であり、「生活に欠かせない場所」であるといえる。
さらに、パン屋とコンビニは『母国の懐かしいモノ』に挙げられるのではないかと思う。
というのも海外に住んでいると、コンビニや自販機といった日本の『便利さ』がとても懐かしくなるのだ。24時間利用可能で、必要なものは何でもそろっているコンビニはまさに日本の便利さ、快適さの象徴。ほしいものが簡単に手に入り、単なる時間つぶしにも使えるコンビニは、よく働く国ニッポン人が生み出した便利な文化の産物ともいえる。
反対にフランス人にとっては、子どもの時から毎日通っていたパン屋はとてもなじみ深いものだ。フランス人の美食の象徴といってもいい。パン屋から香る香ばしい匂い、パンをちぎるときの音、残ったパスタのソースをつけて食べるパンのおいしさ、幼いころパン屋におつかいに行った思い出…。そんなパンの思い出がフランス人にはある。だからこそ、日本に住むフランス人に「フランスにある懐かしいモノは何か?」と尋ねてみると、『パン』と答える人がとても多いのだ。
フランス人にとってのパン屋と、日本人にとってのコンビニ。
どちらもその国の良さを端的に表しているように思う。
余談だが、私の主人(フランス人)は日本にいるころ、コンビニの完璧なまでの陳列棚にとても感心していた。少しの隙間もなく、ビッチリ商品を陳列できるよう計算された店内を褒め称えていた。人口密度の高い東京を首都とする日本は、小さな面積を最大限に活用する知恵を持っている。コンビニの陳列棚はそんな日本人の知恵を表しているのかもしれないと思った。