フランスやスイスでは、実に一日に何回もキスを交わす。このキスをビズ(bise)というらしい。
これは習慣・挨拶の一種でもあり、相手との距離を示す証明書のようなものでもある。ビズをする状況としない状況とでは明確な差があり、しかし、しないからと言って仲が悪いわけではなく、あるいは数分後にはする関係になることも多い。状況がビジネスかプライベートかオフィシャルかどうかによっても異なる。
ここで言うビズのスタイルだが、お互いの頬を軽く合わせ、口先で「チュッ」と音を発したりするもので、地域によって2回、3回、4回と様々である。男女でも同性同士でも行う。親しい者同士などは、口にしたり、強く抱き合ったり、男性同士は思いっきり身体を叩き合ったりし、スキンシップでの愛情表現が豪快である。
通常、初対面の人とは最初は握手だが、相手が幼い場合や、初対面だが連れが既に知り合いだった場合は最初からビズをする。友人や恋人の家族や親戚、暫くぶりに会った人とは必須である(もちろん恋人同志は特別なキスをする)。
さて、ビズをするタイミングだが、慣れないとなかなかスムーズにいかない。通常は右側から始めるが、慌てて左手頬を出した時には鼻や口に当たってしまう。また、そもそもビズをすべきかどうかお互いに戸惑っていたり、一方がするつもりでいても、相手にその準備ができていなかったり、ビズの回数が異なる人との時などは、ぎこちない瞬間が生まれる。彼らは器用にもビズをしながら「元気?」「ええ、元気ですよ、ありがとう。」「あなたはどう?」「相変わらずよ」などと会話を交わす。路上でたまたま知人に会った時、たとえお互いが道路の反対側にいても、ビズをするためだけに信号を待つ。さらには、車に乗っていてもわざわざ止めて窓から顔を出しビズをする。後続車が何台もあるのに気にしない。後ろの車も文句を言わない。スーパーマーケットでも郵便局でも病院でもどこでも、場所を問わない。
グループで食事に行ったとしよう。まず会った時にそれぞれが異なる相手全員とビズ。そして食事が済み、お別れの時にまたビス。6人いたら15通りの組み合わせがある。この別れの時は簡単には済まない。ビズ&何かしらの会話やコメントが大切である。そこでまた長話しを始める人もいる。全員の会話が終わるまでみんな待っている。だからレストランを出ても店先で30分位ペチャクチャ喋っているのが普通である。
友人のフランス人男性が初めて日本に来た時、男友達に紹介された女性に挨拶のつもりでビズをし、その女性が驚いたことに驚いたらしい。そこで初めて日本ではビズをしないことを学んだそうだ。大きな習慣の違いである。と、頭では納得していても、自分の好きな男性が、挨拶として別の女性と抱き合って(親しい人とは本当に強く抱き合う)ビズをし、目と目を見つめ合って会話をするのを横で見たくはないのが本音である。
ライター : hina
まさに人との「触れ合い」であるビズ、これはすごいパワーだと思う。初対面でも頬を合わせると、少なくとも相手を憎むことはないだろう。人との繋がりを大切にし、会話を愛する彼らの素直な表現方法なのだと解釈している。幸い私は様々な国の友人に恵まれ、彼らにもキスの習慣がある。そんな中、最低限他人に対するマナーやエチケットを忘れてはいけないと感じさせられる毎日である。