浜松市中区の浜松海の星高校で本年度から、初の外国人クラス担任が誕生した。三月末に教員免許を取得したブラッドリーさんは中学時から日本語を学んだ経験を生かし、この春から日本の高校でクラスを受け持つことが認められた。
このように世界には、1日中外国語を話しながら仕事をしている人がいる。そこまでに行きつくための努力は並大抵ではなく、母国語話者にはない苦労も多いはずだ。しかし、外国語で仕事をする人は母国語を当たり前のように話す人にはないアドバンテージ(優位性)もある。海外で外国語で働くことは何かとハンディがあると思われがちだが、実際は”外国人だから”こそ、他のライバルによりも有利に立てることもあるのだ。
そこで今回は、そんな”外国語で働く人の優位性”を説明した英経済紙『エコノミスト』の記事を紹介する。海外で働いている人や海外勤務経験者には、共感できる部分も多いではないだろうか。
Of two minds

世界はますます英語で仕事をする環境になっている。海外進出をしている大企業(スイスや日本に拠点がある会社でさえ)も、英語をビジネス言語としている。欧州連合や国際連合などの国際機関では、世界の共通語としてこれまで以上に英語のビジネスシェアを拡大している。
まさに、オフィスは英語の世界。他の言語は、単に存在しているにすぎないのだ。
この現象は、英語のネイティブ(母国語として話す人)には有利なのだろうか。外国語で働くのは、確かに難しい。言葉を見つけたり、文章を頭の中でつくるような必要がなく、流れるように議論ができて言いたいことをニュアンスをもって伝えられるほうが圧倒的に簡単だろう。英語が母国語の人なら、べらべらと必要のないことまでしゃべって反対意見を押し付けることだってできるし、相手が口を挟むことのないように一方的に話し続けることもできる。ジョークを言って場を和やかにすることだって簡単だ。このようなことを外国語でするのはやはり難しい。
しかし、ファイナンシャルタイムズのコラムで、「英語ネイティブもノンネイティブとうまく話し合えるスキルを身につけることが大切だ」と書いたMichael Skapinker氏は、ノンネイティブでいることの優位性もあると語っている。その優位性は”かすか”ではあるが、取るに足らないわけではない。ノンネイティブスピーカーは自分の明敏さを見せびらかすことはできないが、だからこそ賢そうに見られる。これは世界中の口が達者な人に欠けてしまっている要素だ。
逆もまたしかりだ。ノンネイティブは実際よりも「場を暗くする人」というイメージを持たれやすいので、交渉のときにギャップを持たせて相手を驚かせることもできる。フランス在住のアメリカ人大学教授であるジョンソンいわく、言語だけではなく違った文化背景を持っている外国人の存在は、職場の思考傾向や邪魔なものが何かを気づかせるきっかけになり、会議をうまく終わらせるガイドになるそうだ。異端な考えというのは、状況がわからないというふりをする腹黒さでうまく隠すこともできるのである。
外国語で仕事をする人は、他にも特典がある。エコノミストで働くロシア人によると、説明を求めることで時間を稼げたり、注意を他へそらすことができるそうだ。
さらに、ノンネイティブはゆっくりと話すことで正しい言葉を慎重に選ぶこともできる。これは、興奮したり感情的になっている人のはできないことだ。このように、「話すよりも早く考える」ことの利点は多く、その逆の「考えるよりも早く話す」ことの利点はあまりない。
最も興味深いことに、外国語で話したことを思考へとフィードバックさせることの利点もあるそうだ。ある独創的な研究者は、決断は外国語でしたほうがよりいい結果が得られるということを突き止めた。
シカゴ大学の研究員は、一見すると”正しく”思えるひっかけ問題のテストを被験者たちにやらせた。結果、このテストを外国語で受けた人はひっかけ問題に引っかかることが少なく、正解率も高いことがわかった。つまり、流動的思考にはよくない傾向もあり、行動や決断において思慮深い特性が優位になることもあるということだ。
また、「大勢の命を救うために一人の命を犠牲にしてもいいか?」というようなモラルを問う質問に対しても、外国語はより冷静に決断する力を与えてくれることがわかった。同じ質問を外国語でされた場合のほうが、感情的にならずより実利主義的な決断を下すのである。あるデンマークで働くアメリカ人は、賃上げ交渉をあえてデンマーク語でするように主張したが、これは彼にとって母国語である英語での賃上げ交渉が耐え難いものだったからだそうだ。
これらの外国語で働く人の優位性は、母国語が何語であれ同じである。しかし、現代の英語社会では、特に英語しか話せないモノグロット(一言語使用者)がノンネイティブから協力を得ているわけだ。
職場の多言語話者は英語で会話する以外にも、自分たちの言語でプライベートに会話することもできるわけだ。多言語話者がある言語から別の言語へひょいひょいと飛ぶ様子を見ると、彼らが物事を別の角度から捉えていることを思い知らされる。…これは、欧州委員会でのオランダ人役員の言葉だ。
さらに、ある調査によると、バイリンガルの子どもは他人が頭の中で何を考えているかを察する力があるとされている。これはバイリンガルは常にその場のだれが何語を話しているかに注意を払っているからなのかもしれない。
実際に、外国語で働く人は、これらの優位性や劣位性を話すことが好きで、大いに興味がある。
あぁ、悲しいかな。一言語使用者にはこの面白さがわからない。
外国語で苦戦している人はなんて気の毒なのだろう。
しかし、自分が何を理解しそこなっているのかすら分かっていない一言語使用者についても考えてみよう。
参照:Economist