世界から再三非難されているにも関わらず、日本のマスコミが報道したがらない問題がある。それは、「現代の奴隷」問題だ。
「現代の奴隷」は、脅迫や暴力、強制、権力乱用、詐欺などによって立ち去る自由を奪われ、搾取されている状態を指す。借金の形に漁船で労働させられたり、強制的に家事や売春をさせられたりする例もこれに当てはまる。
31日に発表されたNGOの年次報告書によると、世界各地で「現代の奴隷」状態に置かれている人の数は、成人と子どもを合わせて4500万人を上回っていることが明らかになった。奴隷状態の撲滅を目指す団体「ウオーク・フリー・ファウンデーション(WFF)」が発表した報告書「グローバル・スレイバリー・インデックス2016(Global Slavery Index)」は167か国、4万2000人を対象に53言語で面談を行った情報に基づき、奴隷状態にある人々の割合と各国政府の対応を割り出している。
ウォークフリー財団の調査では、日本でも約23万人が現代の奴隷労働に従事させられていると報告されている。この主な対象は、米国国務省が毎年発表する「人身売買報告書」でも指摘されている性風俗産業に関するものだ。また、今や農業や製造業現場では多くの「技能実習生」が事実上の外国人労働者として働き、日本の産業を下支えしているが、この実習制度の現場でも、人権侵害が生じていると指摘されている。
↓この動画(英語)は広島県カキ産業での中国人実習生の現状をリポートした海外のドキュメンタリーである。低い賃金でこれといったスキルアップもできず、雇い主からセクハラ被害にも遭っているという悲惨な状況をリポートしている。名ばかりになっている「外国人研修・技能実習制度」の問題点を如実に表している。
このブログではこれまで「日本の人身売買問題」について、いくつか記事を書いてきた。
・世界から批判される日本の人身売買について知っておくべき5つのこと
・日本も他人事ではない! 人身売買に関与している国ランキング
こういう記事を書くと一部のナショナリストから猛烈な批判を受けるが、体裁やプライドばかりを守ろうとして、問題にしないから、いつまでたっても解決しないのだ。この点において、世界から再三注意され、批判され続けいるのに、このような状況を知らないのは当の日本人だけだという何とも皮肉な状況が起きている。
以前書いた記事で「世界から批判されている」と書いたが、これに対し、このようなコメントがあった。
世界から批判されるとか書いているが、この記事は完全に間違っています。引用先の出典が、ほぼアメリカのみです。正確に、「アメリカの一部の勢力から批判されている」と書くべきです。「アメリカ」=「世界」ではありません。
はっきり言って、このコメントを書いた人は「現代の奴隷」の現状をなにひとつ理解していない。
去年、現代奴隷法(Modern Slavery Act)という法律が成立したが、これはアメリカでなくイギリスの話だ。同法では人身売買、(家庭内含む)強制労働、借金のかたによる労働、性的搾取、強制結婚などの「現代の奴隷」に英国企業が加担することを抑止することを目的としている。
また、今回の奴隷状態の調査を行ったウォークフリー財団は、オーストラリアを拠点にした団体である。
そもそも、誰もが英語を話せるようになった現代、英語で書かれた文書はそのまま多国語へ翻訳され、世界中に広まると思ったほうがいい。このブログもたまに英語へ翻訳されることがあるが、英語に翻訳されたらその日のうちに、フランス語、ロシア語、イタリア語、スペイン語、中国語へと翻訳されていく。
欧米だけに限らず、日本の人身売買の直接の被害者である中国や東南アジアが、これに注目しないわけはない。また、今後、英国・現代奴隷法に相当する法律が他国でも策定されていく可能性もないとはいえないと専門家は分析している。
まさに、「現代の奴隷」は今、世界が注目する問題なのだ。「平和な国」に胡坐をかいて、問題視していないのは日本だけなのかもしれない。
国立国会図書館の行政法務課が2005年に発表した「日本における人身取引対策の現状と課題」には、『我が国は、10年以上前から国際社会から批判されている』との記述があるが、それから10年以上たった現在でも、「日本は解決に必要な努力をしていない」と再三注意されている。つまり、日本政府は20年以上もの間、現代の奴隷問題を無視し続けているということである。
もういい加減、体裁を気にして問題から目を背け、つまらないプライドを守るのはやめにするべきではないだろうか。「現代の奴隷」問題は、対岸の火事ではなく、まさに自分たちのいる岸で起こっている火事だと早く気がつくべきだ。
自分の土地の火事を消すこともできず、名ばかり技能実習生を迎え入れ、なにが「おもてなしの国ニッポン」だと、世界に笑われてしまうかもしれない。
まずは日本人一人一人が「現代の奴隷を問題視する」ことが、国際社会における役割のひとつである。
参照:AFP, Business Journal, The Japan Times
