フランスでは先週、夏の1カ月バカンスが終わり、街の雰囲気も少しずつ日常生活に戻りました。バカンス明けで気分をリフレッシュして仕事に向かうサラリーマンはどこか清々しい表情をしています。
実はマダムリリーはフランスに来たばかりの頃、「バカンスなんてそもそも日本にはないし、別になくても構わない」と思っていました。しかし、あれから7年経ち、バカンスがある1年の流れに慣れた今では、考え方がまるっきり変わりました。今では、
人間にはバカンスが絶対必要!
だと、心の底から思います。いや、もっと言えば、働いた分だけ収入が増えるわけではない現代に生きる、真面目で責任感の強い日本人だからこそ、息抜きのためのバカンスが必要なのです。そこで今回は、実際にフランスのバカンスを通してわかった「日本人にもバカンスが必要な理由」を、ハーバードメディカルスクールなどの研究を基に紹介します。この記事をきっかけに、日本でもバカンスが必要だという声が高まって、多くの日本人が余裕のある暮らしができればいいな…と思います。
バカンスは健康にいい
大きな休みをとることは、健康にもいいことがわかっています。年に数回まとまったバカンスをとる人は、病気にかかるリスクが21%減少することがアメリカ国立衛生研究所の2000年の論文で発表されました。反対に、数年間連続でバカンスをとらなかった人は、心臓発作に苦しめられる可能性が30%上がります(Framingham Heart Study)。
さらに、フィンランド職業学会の調べによると、バカンスをとらずに常にストレスにさらされている状態が続くと、心臓に深刻なダメージを与え、長時間労働をする人は心臓病になるリスクが40%上がります(2012年)。
ちなみに、日本人の死亡原因の第2位が心臓の病気です。現在、日本では心疾患の患者が、172万9,000人います。心疾患の年間死亡数は、19万6,926人(日本生活習慣病予防協会)。長期休暇のバカンスを導入することで、この数字を下げられるようになるのは間違いないはずです。
バカンスで仕事の効率が上がる
フランス人のように1カ月もバカンスをとっていたら仕事が回らない!と考えている人もいるのではないでしょうか。しかし、1年の間にまとまった休みがあるほうがむしろ仕事の効率は上がるのです。
例えば、2008年の研究では、朝から晩までの長時間労働は仕事の効率や質を落としてしまい、逆にバカンスをとることで仕事の質を改善できることがわかりました(Centre of Expertise for Work Organization)。さらに、休みを入れて、様々な場所へ出かけることで、創造性を刺激し、新しいアイデアが生まれやすくなることが数々の研究でわかっています。
バカンスがあればあるほど、仕事でのパフォーマンスが上がるという研究結果もあるほどです(Ernst&Young,2006)。日本では残業をする人=働き者で偉いというような美徳がありますが、この時代遅れの戦後のような意識を失くし、もっと“仕事の効率性”を重視するようになれば、バカンスがとりやすい社会に変わるのではないかと思います。
バカンスは心の健康にもいい
バカンスは心の健康を保つためにも有効です。米国産業医科大学の1999年の発表によると、バカンスの時間が増えれば増えるほど、うつ病やうつ状態になりにくいことがわかっています。さらにバカンスから帰ってきた人は通常よりも1時間多く寝ることがわかっており、バカンスは睡眠不足も改善します。
バカンスをとることで、明るい人生の見通しができるようになり、目標を達成するためのモチベーションもあがります。24時間の休憩でも結果は同じだそうです。ポジティブな思考を保つためには、定期的な遊びがひつようなのです。
日本では自殺者の多さが海外のメディアでもしばしば話題になりますが、過労死をはじめ、職業上のストレスを苦にした自殺が中高年の自殺の増加の一番大きな原因とされています。仕事から物理的、時間的に距離をおけるバカンス制度が日本でも採用されれば、「仕事が人生」という価値観から解放され、苦しみから逃れるために死を選ぶ人も減るのではないかと思います。
バカンスは脳に良い
バカンスをとることで知力が上がるという研究結果もあります。2009年のハーバードメディカルスクールの研究によると、人の脳はリラックスしている時に知識や知力が強化されることがわかりました。バカンスをとって脳を休ませることで、記憶力アップや新しいスキルの習得にも効果があるそうです。また、私たちが仕事に従事していないとき、脳はもともと持っている知識と新しいアイデアを繋げて強化することもわかっています(ナイメーヘン大学、2003年論文より)。
これはマダムリリー自身もバカンス明けにいつも実感することです。バカンス明けは気分がすっきりして、不思議とブログ記事のアイデアが次々と浮かびます。脳が普段よりも冴えて、次々と思い白いアイデアが浮かび、仕事に集中できるようになります。
バカンス制度での経済効果
バカンスで、国の経済活動が一時ストップしてしまったら、生産力が落ち、経済競争力が下がるという意見もあります。しかし、バカンス導入の経済的影響は何もマイナス面ばかりではないのです。
平成14年経済産業省の調査『休暇改革は「コロンブスの卵」』によれば、年次有給休暇の完全取得が実現した場合の経済効果は約12兆円、雇用創出効果は約150万人であるしています。
ちなみにフランスでは、夏のバカンスである8月はほぼ全ての経済活動がストップします。病院(個人)も銀行も、毎日行くパン屋や美容院も、ほぼ全てのお店がバカンスのために閉まります。しかし、一方で旅行業、観光業は書き入れ時で、1年で最も忙しい時期です。バカンスがあるおかげで儲かる産業が必ずあり、1年のうちにこのような流れをつくることで、ビジネスする側も雇用や生産をコントロールしやすいという利点もあります。
真面目で責任感があり、働き者の日本人だからこそ、このメリハリをもった働き方が向いているのではないか、とさえ思います。働くときは精一杯働き、休むときは精一杯休む!これこそがデキル人の働き方だ!という新しい美徳や価値観が生まれたら、日本はもっと働きやすくて暮らしやすい国になれるのではないでしょうか。
バカンスで家族関係が良くなる
マダムリリーが夏が来るたびに実感する、バカンスの一番の良さがこれです。仕事や学校などの日常生活から離れ、人間関係や仕事の悩みから解放され、家族だけで過ごす時間は非常に貴重です。
忙しい毎日を生きる私たちは、家族と深いコミュニケーションをする時間はほとんどなく、業務連絡のような会話をしただけで1日が終わった…という日々を過ごしている人も少なくないと思います。だからこそ、子どもや夫婦と一緒に過ごす時間が必要なのです。スマホやネットの溢れる情報の波を裁ち、大切な人と真に向き合う時間です。
これにより、普段できなかった会話ができたり、いつもはなかなか言えない感謝の気持ちを伝えられたり、家族と心が繋がる時間をもつことができます。改めて互いの性格や思考、普段考えていることなどを知ることができるのです。また、子どもにとっても、家族で魚釣りやキャンプ、海水浴などの経験を通して、親にもっと自分のことを話す機会が生まれ、信頼感と、親に愛されているという実感をもつことができるはずです。
1カ月というまとまった休みをとることで、親子や夫婦の絆が強くなり、明日への活力へ繋げることができるのです。家族を養うために働いているのに、その家族と過ごすための有意義な時間がないのは本末転倒だと思いませんか。
そもそも、
あなたは何のために働いているのですか?
私たちの幸せは仕事することではありません。仕事とは「幸せになるための手段」に過ぎないのだと私は思います。そして、最も幸せを感じる時間が大切な人と過ごす時間なら、それを手に入れるのは当然の権利なのではないでしょうか。
- あなたは何のために働いているのですか?
- 仕事とは、あなたにとって何ですか?
- どうして人は働くのでしょうか?
- あなたにとって人生とは?生きる意味は何ですか?
- あなたにとっての幸せとはなんでしょうか?
こういう質問を自分に問いかけてみれば、仕事に忙殺され自由な時間を持てない今の社会が、いかに馬鹿げているかがわかると思います。
真面目で働き者の日本人だからこそ、走り続けるためには遊びが必要。
もっと楽に、自由に、あなたらしく、ゆとりをもって生きてみませんか?